1959年の航空

1959年は、航空技術がかつてない速さで進歩し、未来への扉が開かれた記念すべき年となりました。ジェット旅客機が世界の主要路線に登場し始め、空の旅の速度と快適性を劇的に向上させたほか、音速を超える高速飛行や成層圏を超える高高度飛行、そして月世界への到達といった、人類の挑戦が次々と実現しました。この年は、新たな航空機が多数誕生し、様々な分野で記録が更新された一年として航空史に刻まれています。

旅客航空の進化

世界の空でジェット時代が本格的に幕を開けました。特に大きな出来事として、1月29日にはアメリカン航空がボーイング707を用いて、アメリカ国内線におけるジェット旅客機の定期運航を開始しました。これにより、大陸横断の所要時間は大幅に短縮され、空の旅はより身近なものとなりました。また、ヨーロッパではエールフランスが7月22日にシュド・カラベルを就航させ、大陸内のジェット化を推進しました。

新型旅客機の開発も進み、1月20日にはイギリスの中距離ターボプロップ4発旅客機、ビッカースヴァンガードが初飛行しました。これは、ジェット化が進む中でも、燃費や運航コストの面で優位性を持つターボプロップ機の可能性を示すものでした。年末の12月20日には、ソビエトの輸送機アントノフ An-24も初飛行しており、世界の様々な地域で新しい航空機が登場しました。

航空ネットワークの広がりとともに、新たな航空会社も誕生しました。12月16日には、台湾で現在も主要航空会社の一つである中華航空が設立されました。一方で、歴史ある空港の役目を終える出来事もありました。ロンドンのクロイドン空港は、40年間にわたり民間航空の拠点として利用されましたが、9月30日をもって閉鎖されました。

軍用機と実験機の発展

軍用機分野でも高性能な機体が開発されました。6月17日には、フランスの超音速爆撃機ダッソーミラージュIVが初飛行し、その高速性能を示しました。また、7月30日にはアメリカのノースロップ F-5 フリーダム・ファイターが初飛行。これは後に多くの国で採用される軽量戦闘機となりました。

航空技術の最先端を行く実験機も登場しました。9月17日には、極超音速・高高度飛行を目指すアメリカの実験機、ノースアメリカン X-15が初飛行しました。これは後の宇宙開発にも繋がる重要な一歩でした。日本でも、冷戦下の緊張を背景に、9月24日に藤沢飛行場にロッキードU-2偵察機が不時着するという「黒いジェット機事件」が発生し、国民の関心を集めました。

速度、高度、距離の限界への挑戦

1959年は、航空機による速度、高度、距離の記録が次々と塗り替えられた年でもあります。1月25日には、フランスのアンドレ・トゥルカ操縦によるノール 1500 グリフォンが、100km周回コースで1,643 km/hという驚異的な公認速度記録を樹立しました。

高高度飛行記録では、ソビエトのウラジミール・イリューシンがスホーイ Su-9を改造した実験機 T-431で7月14日に28,852 mの記録を達成しましたが、その後アメリカがこれを上回ります。12月6日にはローレンス・フリントがF-4 ファントム IIで30,040 mを、そして12月14日にはジョー・B・ジョーダンがロッキード F104 スターファイターで31,513 mと、立て続けに記録を更新しました。ヘリコプターでも、12月9日にウォルター・J・ホジソンがカマン H-43 ハスキーで9,097 mの高高度記録を樹立しています。

速度記録でも、12月15日にジョセフ・W・ロジャース操縦のコンベア F-106 デルタダートが2,455.7 km/hを記録し、航空機の速度性能の向上を印象づけました。

長距離飛行の分野でも記録が生まれました。6月4日、マックス・コンラッドは軽飛行機パイパーコマンチを用いて、カサブランカからニューヨークまでの12,365 kmを単独で飛行し、軽飛行機の距離記録を樹立しました。

宇宙への一歩

航空技術の進展は、宇宙開発とも密接に結びついていました。1959年には、ソビエトが無人月探査機「ルナ」シリーズを積極的に打ち上げました。1月2日に打ち上げられたルナ1号は月面着陸には至らなかったものの、世界初の人工惑星となりました。9月12日に打ち上げられたルナ2号は、史上初めて月面に到達した探査機となり、そして10月4日に打ち上げられたルナ3号は、初めて月の裏側の撮影に成功し、人類に月の新たな姿をもたらしました。アメリカも8月7日に人工衛星エクスプローラー6号を打ち上げるなど、米ソによる宇宙開発競争が激しさを増しました。

その他の重要な出来事

4月27日には、後のアメリカ大統領専用機「エアフォースワン」の原型となるボーイング VC-137がアイゼンハワー大統領に公開されました。また、11月16日には成層圏からのパラシュート降下実験「プロジェクト・エクセルシオ」が行われ、ジョゼフ・キッティンジャーが高度23,300 mからの降下を成功させ、高高度からの緊急脱出技術の発展に貢献しました。

これらの輝かしい記録や挑戦を称え、この年に活躍した多くのパイロットや技術者には、ハーモン・トロフィーやデラボー賞といった権威ある航空賞が贈られました。ジョー・B・ジョーダンやジョゼフ・キッティンジャー、ジョセフ・W・ロジャースらが受賞者リストに名を連ねています。

1959年は、ジェット時代の本格到来、記録破りの飛行、そして宇宙への挑戦という、航空史における大きな変革期を象徴する一年でした。この年の出来事は、その後の航空技術のさらなる発展の礎となりました。

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