1960年のラジオ (日本)

1960年の日本のラジオ

1960年は、日本のラジオ放送の歴史において、後の発展につながる重要な変化がいくつも見られた年でした。特に、新しい放送局の誕生や既存局の再編、そして技術的な挑戦であるステレオ放送の実用化への動きが活発になりました。

日本初の民間FM放送誕生

この年の最も注目すべき出来事の一つは、民間による超短波放送（FM放送）の第一歩が記されたことです。5月1日、学校法人東海大学の運営する超短波放送実験局が、実用化試験局「FM東海」として再出発しました。これは、日本で初めて民間の手によって運営されるFM局の誕生を意味し、試験放送ながら商業放送としてのCM放送も開始されました。このFM東海は、後のエフエム東京の源流となる存在であり、日本のFM放送の歴史を語る上で欠かせない出来事です。

さらにFM東海は、8月には全日放送を開始するだけでなく、当時の先進技術であったクロスビー方式（現在のFMステレオ放送方式とは異なります）によるステレオ実験放送にも着手しました。これは、将来の放送技術の可能性を探る、積極的な取り組みでした。

NHKのステレオ放送と国際評価

公共放送であるNHKも、ステレオ放送の実験と実用化に力を入れていました。NHKラジオ第1と第2を用いた立体放送は、この年も特別な番組として制作・放送されました。

特に8月14日には、音楽詩劇「オンディーヌ」が立体（ステレオ）でリメイク放送されました。これは、前年にモノラルで放送された作品を最新技術で再現したもので、その完成度の高さは国内外で評価されることになります。この「オンディーヌ」は1960年のイタリア賞ラジオ音楽部門に出品され、見事グランプリにあたるイタリア賞を受賞しました。これは、日本のラジオ番組制作能力と技術水準が国際的に認められた、記念すべき出来事でした。

他にも、8月14日には立体ドラマ「われ極点にあり」、11月2日には立体放送劇「渦潮」といった立体放送番組がNHKで放送され、聴取者に新しい音響体験を提供しました。

放送局の動きと商号変更

1960年は、放送局の開設や統合、そして商号変更といった再編の動きも活発でした。

新たに開局した放送局としては、4月1日に「東海ラジオ放送」が、7月1日には南西諸島における重要な放送局となる「ラジオ沖縄」が開局しました。

一方で、既存の放送局が統合される形で閉局した事例もあります。3月には、「近畿東海放送」と「ラジオ東海」が閉局しました。これらの動きは、当時のラジオ業界の競争環境や経営戦略の変化を反映しています。

また、一部の放送局では商号の変更が行われました。1月1日には「神戸放送」が「ラジオ関西」へと名称を変更し、地域名を冠することでより明確なアイデンティティを持つことになりました。そして、11月29日には、日本の主要な放送局の一つである「ラジオ東京」が「東京放送」へと商号を変更しました。この「東京放送」という名称は、後のテレビ・ラジオ兼営局としての発展を象徴するものとなります。

新しい番組の開始と終了

この年には、各局で様々な新番組が始まり、多くの聴取者に親しまれていた番組がその歴史に幕を下ろしました。

NHKラジオ第1では、「明るい社会」「午後の娯楽室」「ラジオ芸能ホール」「科学千一夜」「芸能お国めぐり」といった新しいジャンルやテーマの番組が始まりました。NHKラジオ第2でも、「そろばん教室」「定時制高校の時間 ホームルームの話題」といった教育・教養番組や、「芸能劇場」「ことばの広場」などがスタートしました。

民間放送では、開局した東海ラジオ放送で早くも「東海ハイウェイ」のようなワイド番組が始まりました。ラジオ関西では、開局直後の7月1日からリスナー参加型の「歌声は風にのって」がスタートし、長寿番組となっていきます。ラジオ沖縄でも、地域の文化に根差した「民謡の花束」や「方言ニュース」などが始まりました。

その他にも、大阪放送の「蝶々さんどないしよう」、日本短波放送の「世界経済ダイヤル」、文化放送の「ロイ・ジェームスの意地悪ジョッキー」など、各局が特色ある番組を次々と企画・放送しました。

一方、NHKラジオ第1では、長年親しまれてきたクイズ番組「二十の扉」が4月で放送を終了するなど、時代の流れと共に番組編成も変化していきました。

1960年は、このように新しい放送技術の導入、民間放送の多様化、そして放送局の再編といった多角的な動きが日本のラジオ界を特徴づけた一年であり、その後の発展に向けた基盤が築かれた時期と言えるでしょう。

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