1961年のロードレース世界選手権

1961年FIMロードレース世界選手権：激動のシーズン

1961年のロードレース世界選手権は、第13回大会として4月のスペインGPから始まり、11月アルゼンチンGPで幕を閉じました。この年は、スペインGPとスウェーデンGPが選手権に復帰し、東ドイツGPとアルゼンチンGPが新たに開催カレンダーに加わるなど、大幅な変更がありました。特に、アルゼンチンGPの開催は、ヨーロッパ以外での初開催という歴史的な出来事でした。しかし、スペインGPでは350ccと500ccクラスのレースは開催されず、125ccと250ccクラスのみ全11戦が開催された点が特筆されます。

MVアグスタの撤退とゲイリー・ホッキング

1月、イタリアを代表するメーカー、MVアグスタがワークスチームからの撤退を発表しました。アグスタ伯爵は当初レースからの完全撤退を考えていましたが、イタリア国民の強い反対とイタリアモーターサイクル協会の介入により、1960年型マシンがゲイリー・ホッキングに貸し出されることになりました。ホッキングはプライベーターとして参戦することになり、マシンには「Privato」の文字が記されましたが、500ccと350ccクラスではその圧倒的な強さを示しました。

ホンダの台頭とスズキ、ヤマハの参戦

MVアグスタのワークスマシンがいなくなった小排気量クラスでは、ホンダが躍進しました。トム・フィリスやジム・レッドマン、マイク・ヘイルウッド、ルイジ・タベリといったトップライダーたちがホンダのマシンを選択し、125ccと250ccクラスの上位を独占しました。ホンダはこの成功を足掛かりに、翌年から大排気量クラスへの進出を果たします。一方、前年から参戦していたスズキは、125ccと250ccクラスに全戦参戦しましたが、トラブルに見舞われ思うような結果を残せませんでした。

この年から、ヤマハが125ccと250ccクラスに参戦を開始しました。北米での経験を活かし、ロータリーディスクバルブを持つ2ストロークエンジンを搭載したワークスマシンでレースに挑み、アルゼンチンGPでは伊藤史朗が250ccクラスで4位に入るなど、存在感を示しました。

エルンスト・デグナーの亡命

このシーズン最大の出来事は、MZのエースライダー、エルンスト・デグナーの亡命でした。125ccクラスでタイトルを争っていたデグナーは、スウェーデンGP後、家族と共に西ドイツへ亡命しました。その後、スズキと契約し、日本の技術力を吸収しました。この事件は、東西冷戦下の複雑な情勢を反映しており、東ドイツのライダーたちのレース参加にも影響を与えました。

各クラスの戦況

500ccクラス: MVアグスタのホッキングが圧倒的な強さでチャンピオンを獲得しました。マイク・ヘイルウッドがノートンでホッキングを追いかけ、終盤にはMVアグスタのマシンを与えられ、イタリアGPで優勝しました。

350ccクラス: 開幕戦はヤワのスタストニィが制しましたが、その後はホッキングが4連勝を飾り、チャンピオンとなりました。スタストニィは最終戦で2勝目を挙げ、ランキング2位を獲得しました。

250ccクラス: ホンダの新型4気筒マシンの圧倒的な強さで、ホンダが全勝に近い戦績を収めました。マイク・ヘイルウッドがプライベーターとして4勝を挙げ、チャンピオンに輝きました。

125ccクラス: ホンダのフィリスとMZのデグナーがタイトルを争いました。デグナーの亡命後、フィリスがチャンピオンに輝きました。

1961年シーズンは、メーカーの勢力図が大きく変化し、新たなスターライダーが誕生した、モーターサイクルレース史において重要な年となりました。ホンダの躍進、ヤマハの参戦、そしてデグナーの亡命劇など、数々のドラマが展開されたこの年は、今後のレースシーンを大きく変える転換期であったと言えるでしょう。また、南米ラウンドにおける、ヨーロッパ勢の不参加が目立つ傾向もこの年から顕著になり始めました。

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