1968年スペイングランプリ

1968年スペイングランプリ：悲劇と革新の狭間で

1968年5月12日、スペイン・ハラマ・サーキット。そこでは、F1世界選手権第2戦、1968年スペイングランプリが開催されました。このレースは、前月、F2レースで悲劇的な事故死を遂げた元チャンピオン、ジム・クラークの死後初めてのレースとして、大きな影を落としていました。クラークは開幕戦南アフリカグランプリを制し、選手権ポイントリーダーとしてこのレースに臨むはずでした。彼の不在は、レース全体に暗い雰囲気をもたらしました。

ロータスチームの苦悩と新時代の幕開け

特に大きな影響を受けたのは、クラークの所属チーム、ロータスでした。クラークは前年ハラマで開催された非選手権レースでも優勝しており、チームにとって大きな存在でした。さらに、彼の代役としてインディ500に参加したマイク・スペンスもレース直前に事故死するという痛ましい出来事が発生しました。この相次ぐ悲劇に打ちひしがれたチーム代表コーリン・チャップマンは、14年ぶりのF1カレンダー復帰となったこのスペイングランプリへの参加を断念。結果、ロータスはクラークの代役としてジャッキー・オリバーを起用するも間に合わず、グラハム・ヒルただ1台での参戦となりました。

しかし、このレースでロータスは新たな歴史を刻むことになります。彼らは、スポンサーであるゴールドリーフの赤と金色をカラーリングに採用。イギリス伝統のブリティッシュグリーンを捨て、F1で初めてスポンサーカラーを全面に押し出したワークスチームとなったのです。この選択は、伝統と革新、そして悲しみと希望の入り混じった複雑な時代の象徴と言えるでしょう。

各チームの状況と技術革新

ロータスだけでなく、他のチームも様々な変化がありました。ジャッキー・スチュワートは直前のF2レースで負傷、マトラでは代役のジャン＝ピエール・ベルトワーズが新車MS10を走らせることになりました。フェラーリはエースドライバーの負傷により2台体制で臨み、マクラーレンはフォード・コスワース・DFVエンジンを搭載した新車M7Aを投入、ブラバムはレプコ製の新型エンジン、クーパーはBRM製のV12エンジンを搭載したマシンで参戦しました。ホンダもローラと共同開発した新車RA301を持ち込みましたが、テスト不足が響きました。また、いくつかのプライベーターチームも新車やドライバー変更を行い、レースを盛り上げました。

予選と決勝レース

予選ではクリス・エイモン（フェラーリ）がポールポジションを獲得。ペドロ・ロドリゲス（BRM）、デニス・ハルム（マクラーレン）と共にフロントローを占めました。決勝レースは、ロドリゲスが一時リードを奪いましたが、ベルトワーズ、エイモン、ハルムが追走。ベルトワーズは一時トップに立ちましたがエンジントラブルに見舞われ、エイモンがトップに返り咲きました。しかし、エイモンは燃料ポンプの故障でリタイア。その結果、ヒルが首位に立ち、そのまま優勝を飾りました。ハルムはギアトラブルで順位を落とし、ベルトワーズはマシントラブルからの復活を果たし、ファステストラップを記録しました。ホンダのサーティースはギアボックストラブルでリタイアとなりました。

新たな記録と時代

このレースでは、ベルトワーズのファステストラップをはじめ、様々な記録が生まれました。それは、悲劇と革新が入り混じった、転換期のレースであったことを示しています。クラークの死という悲しみを背負いながらも、F1は着実に進化し、新たな時代へと歩みを進めていました。このレースは、F1の歴史において、忘れられない一戦として記憶されているのです。

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