1971年の文学

1971年（昭和46年）は、日本の文学界にとって、活発な創作活動と同時に、幾つかの衝撃的な出来事が交錯した年として記憶されています。

まず、文学賞の動向を見てみましょう。日本文学の代表的な賞である芥川龍之介賞と直木三十五賞は、この年に二度選考が行われました。まず、前年1970年下半期を対象とする第64回の選考会が1月18日に開催され、芥川賞には古井由吉の『杳子』、直木賞には豊田穣の『長良川』がそれぞれ選ばれました。しかし、1971年上半期を対象とする第65回の選考会が7月16日に行われた際には、驚くべきことに芥川賞、直木賞ともに「該当作なし」という結果に終わりました。これは文学界に少なからず波紋を広げました。

その他の主要な文学賞では、第7回谷崎潤一郎賞は野間宏の長編小説『青年の環』が受賞し、戦後文学の到達点を示す作品として高く評価されました。また、新人作家の登竜門とされる第14回群像新人文学賞は、小林美代子の『髪の花』と広川禎孝の『チョーク』が受賞し、新しい才能が登場しました。

この年は、多くの作家が力作を発表しました。小説や戯曲の分野では、安部公房が『未必の故意』、大岡昇平が『レイテ戦記』、川端康成が『定本雪国』、佐藤愛子が『その時がきた』、筒井康隆が『脱走と追跡のサンバ』などを刊行しました。評論分野では、前年に逝去した三島由紀夫の評論集『蘭陵王』が出版され、彼の幅広い思想や芸術観を知る手がかりとなりました。また、児童文学では斎藤隆介と滝平二郎による『モチモチの木』や、佐藤さとると村上勉による『おおきなきがほしい』といった、後に長く読み継がれる名作が生まれました。その他にも、高野悦子の日記をまとめた『二十歳の原点』や、土居健郎による日本文化論『「甘え」の構造』など、後の社会に大きな影響を与えたノンフィクションや評論が世に出ました。

一方、文学界からの別れも多くありました。国内では、幻想的・耽美的な作風で知られる小説家・随筆家の内田百閒が81歳で、詩人・英文学者の日夏耿之介が81歳で、女権運動家であり思想家、評論家でもあった平塚らいてうが85歳で、そして夭折の天才として惜しまれた小説家・中国文学者の高橋和巳が結腸癌のため39歳で、それぞれこの世を去りました。また、国外では「エラリー・クイーン」として活躍した推理作家の一人、マンフレッド・リー（66歳）や、ノーベル文学賞受賞者であるギリシャの詩人イオルゴス・セフェリス（71歳）などが逝去し、文学界は多くの重要な才能を失いました。

さらに、前年11月の衝撃的な事件で亡くなった三島由紀夫に関連する出来事も発生しました。9月20日には、三島の墓石から遺骨が収められた壺ごと紛失するという事件が起こり、世間の耳目を集めました。この遺骨は12月5日になって、墓から比較的近い地中から発見され、事件は一応の解決を見ましたが、依然として三島由紀夫という存在が文学界内外に影響を与え続けていることを示す出来事となりました。

1971年は、文学賞の異例の事態、数々の傑作の誕生、そして多くの著名な作家との別れなど、多様な側面を持つ一年でした。これらの出来事は、当時の社会情勢や文化状況とも深く結びつきながら、日本文学史の一ページを飾るものとなりました。

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