1990年のル・マン24時間レース

1990年ル・マン24時間レースの概要

1990年のル・マン24時間レース（24 Heures du Mans 1990）は、フランスのサルト・サーキットで1990年6月16日から17日にかけて開催された58回目の大会です。国際自動車スポーツ連盟（FISA、現在のFIA）は、主催者のフランス西部自動車クラブ（ACO）に対して圧力をかけ、「サーキットの直線距離は最長でも2km以内にし、シケインを設置しなければ公認を取り消す」と通告しました。ACOはこの要求に応じ、サルト・サーキットの名物だった約6kmの「ユノディエール」ストレートに新たに2つのシケインを設置する改修を実施しました。これはル・マンの伝統を損なうものでしたが、ドライバーたちには好評でした。

改修により、コースの長さは13.535kmから13.600kmにわずかに伸びました。1990年は、シリーズ開催に向けた査察のタイミングが合わず、世界スポーツプロトタイプカー選手権（WSPC）には組み込まれず、スポーツカー選手権を主目的としたメルセデス・ベンツは出場を見送ることとなりました。この年はまた、燃費規制の下で行われる最後の年でもありました。

日本メーカーの挑戦

ポルシェ・962の性能は年を追うごとに低下してきており、前年に優勝したメルセデス・ベンツの不参加は日本メーカーにとってル・マン制覇のチャンスをもたらしました。日産自動車は、販売が好調な高級車の収益をもとにレース予算を大幅に増加させ、体制を強化して大会に臨むこととなります。日産・R90CPをはじめとする新たなマシンは、入場券やプログラムにその姿が掲載され、ペースカーにはフェアレディZ300ZXが用意されました。

日産はまた、高性能なVRH35Z型エンジンを開発し、840PS、85kgmを発揮することに成功。日産・R90CKとR90CPの2種の車両が投入されることとなりました。ニッサン・モータースポーツ・ヨーロッパ（NME）監督には生沢徹が選任され、NMEから2台、ニッサン・パフォーマンス・テクノロジー（NPTI）から2台、ニスモから1台という体制でスタートラインに立つことが決まりました。

一方、トヨタ自動車も厳しい競争を覚悟し、トムスとサードから3台を出場させました。彼らは出場の意義を実感しつつも、ACOによる新シケインの販売には拒否の姿勢を見せました。

競技の準備と展開

公式予選は6月13日18時に始まり、日産のマーク・ブランデルが3分27秒02のタイムでポールポジションを獲得。これは新たに製作された予選用エンジンを使用したものでしたが、このエンジンの存在は一部のチームメンバーの間で知られておらず、内部の対立を引き起こしました。

レース開始当初、日産は優れたパフォーマンスを見せ、NMEの24号車が先頭を走行しましたが、NPTIの84号車がホイールトラブルを起こし、その後もリタイヤ連発で、日産にとって厳しい展開となりました。特にカーボンブレーキのトラブルが顕著で、予想よりも早い段階で機能しなくなることが判明しました。さらに、トランスミッションの不具合も影響し、日産の挑戦は厳しいものとなります。

最終結果と評価

最終的にはジャガー・XJR-12が優勝し、2年ぶり5回目の栄冠を手にしました。特に高い優勝期待を背負った日産は競技後半に苦しみ、ニスモは日本車として最高位となる5位に入賞するのが精一杯でした。この大会は、激しい競争と技術の進化をもたらし、日本メーカーの挑戦の舞台となったことを象徴しています。

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