1990年の航空

1990年は、航空の世界にとって多角的な進展と出来事が相次いだ記念すべき一年でした。

年が明けて間もない1月10日には、マクドネル・ダグラス社が開発した大型三発ワイドボディ旅客機、MD-11が初めて空へと舞い上がりました。この機体は、世界中の航空会社で長距離路線を中心に活躍することになります。同月26日には、アメリカ合衆国大統領専用機「エアフォースワン」の新たな機体となるVC-25（ボーイング747-200Bを改造したもの）の1号機が引き渡され、運用開始に向けた準備が進められました。

2月に入ると、南アフリカが独自開発した攻撃ヘリコプター、AH-2 ローイファルクが2月11日に初飛行を実施し、南アフリカの航空産業の技術力を示しました。続く3月10日には、航空機製造大手ボーイング社が、製造した旅客機としては6,000機目となるボーイング767-200型機を、イギリスのブリティッシュ・エアウェイズへ納入するという節目を迎えました。また、ソビエト連邦では、地域路線向けの双発ターボプロップ旅客機であるIl-114が3月29日に初めての試験飛行を行いました。さらに4月13日には、ソ連の新たな戦闘爆撃機であるSu-34が初飛行し、その後の発展型は現在も運用されています。

ヘリコプター分野でも動きがあり、MDヘリコプターズのノーター（NOTAR：No Tail Rotor、テールローターなし）システムを採用したMD 520Nが5月1日に初飛行しました。このシステムは騒音低減や安全性の向上に寄与する技術として注目されました。

夏の始まり、6月には中国で新たな航空会社、中国北方航空が瀋陽桃仙国際空港を拠点に設立され、中国の航空ネットワーク拡大の一翼を担うことになります。また、6月22日にはカナダの航空宇宙企業ボンバルディアが、ビジネスジェットの分野で知られるリアジェットを買収し、ビジネスジェット市場における地位を強化しました。

軍用機開発では、アメリカの次期戦闘機開発プログラムにおいて、ノースロップ社が提案したステルス戦闘機YF-23が8月27日に初飛行しました。これに続いて、ロッキード社（後のロッキード・マーティン）が開発したYF-22も9月29日に初飛行を成功させ、両機は後のF-22ラプター開発へと繋がる重要なステップとなりました。

この年には痛ましい航空事故も発生しました。10月2日、廈門航空のボーイング737型機が、広州白雲国際空港（旧空港）でハイジャック犯によって乗っ取られる事件が発生。犯人が着陸中に操縦室でもみ合った結果、機体は制御を失い、滑走路上で駐機していた他の2機の旅客機と衝突しました。この事故により、廈門航空機を含む合計132名が犠牲となるという悲劇的な結果となりました。

一方で、日本の航空業界でも動きがありました。日本航空のグループ会社として、チャーター便やウェット・リース便の運航を担うジャパンエアチャーター（JAZ、後のJALウェイズ）が10月5日に設立されました。

技術開発の面では、米国とドイツなどの国際共同開発による実験機、ロックウェル-MBB X-31が10月11日に初飛行しました。この機体は、推力偏向技術を実証するためのもので、後の高性能戦闘機の運動性向上に大きく貢献する研究が進められました。さらに、11月21日には、中国の南昌飛機製造公司とパキスタン航空複合企業体が共同で開発したジェット練習機、K-8 カラコルムが初飛行しました。

このように1990年は、多種多様な新型機の誕生、企業の戦略的な動き、そして航空安全に関わる出来事が混在した、記憶に残る一年でした。また、この年の航空界や宇宙飛行における功績に対し、FAI・ゴールド・エア・メダルはトルコのサビーハ・ギョクチェン氏に、デラボー賞はソ連とフランスの宇宙飛行士チームに贈られました。

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