1993年の航空

1993年は、航空業界にとって記念碑的な出来事から悲劇まで、多様な様相を呈した一年となりました。

まず、世界の空を半世紀近く飛び続ける巨大旅客機、ボーイング747が歴史的な節目を迎えました。初号機の製造開始から四半世紀を少し超えたこの年、記念すべき1000機目の機体がラインオフし、航空史におけるその確固たる地位を改めて示しました。

また、航空機メーカーの生産実績においても特筆すべき出来事がありました。アメリカの大手メーカーであるマクドネル・ダグラスが、累計生産機数1万機を達成。これは同社の長い歴史と技術力を物語る重要な記録です。

冷戦期を代表する傑作戦闘機、F-86セイバーも、この年に一つの時代に幕を下ろしました。南米ボリビア空軍で運用されていた機体が退役し、世界中で運用される最後のF-86がその役目を終えました。

新しい航空機の開発も活発に行われ、いくつかの機体が初の試験飛行に成功しました。ビジネスジェット分野では、フランスのダッソー社が開発したファルコン2000が3月4日に空へ舞い上がりました。また、日本の本田技研工業が手掛けた小型実験機MH02も3月5日に初飛行を実施。さらに、ヨーロッパのエアバス社からは、主力機A320の胴体延長型であるエアバスA321が3月11日にその姿を現し、その後の商業運航に向けた一歩を踏み出しました。年末には、高速ビジネスジェットとして知られるセスナ サイテーションXも12月21日に初の試験飛行を行いました。

軍用機の分野でも重要な動きがありました。アメリカ空軍は、次世代大型輸送機として期待されるC-17グローブマスターIIIの部隊配備を7月14日に開始。これにより、輸送能力の向上とグローバル展開能力の強化が進められました。また、高度なステルス性能を持つ戦略爆撃機、ノースロップB-2スピリットも12月11日に第509爆撃航空団への配備が始まり、アメリカの抑止力の一翼を担うことになりました。さらに、8月には2機のB-1ランサー爆撃機がわずか47時間で世界一周飛行を成功させ、長距離飛行能力と即応性を示しました。

一方で、この年は二つの悲劇的な航空事故が発生しました。

4月27日、ガボンの首都リーブルヴィルを離陸したザンビア空軍の輸送機が、直後に大西洋上に墜落するという事故が発生。この機体にはサッカーザンビア代表チームの選手たちが搭乗しており、乗客乗員合わせて30名全員が犠牲となりました。これは「ガボン航空惨事」として、サッカー界にも大きな衝撃を与えました。

9月21日には、グルジア国防軍が兵員輸送のためにチャーターしたトランス・グルジア航空のツポレフTu-134型機が、黒海沿岸のアブハジア分離主義者が発射したとみられる地対空ミサイルによって撃墜されるという事件が発生。この攻撃により、搭乗していた134名が命を落としました。紛争地域における民間航空機への脅威が浮き彫りになった痛ましい出来事でした。

航空インフラの整備も進みました。日本の東京国際空港（羽田空港）では、新たな旅客ターミナルビル「ビッグバード」の供用が9月27日に開始され、国内最大の空港として旅客サービスの向上と処理能力の拡大が図られました。

また、航空会社の設立や運航開始もありました。アメリカ合衆国では、バリュージェット航空が10月26日に運航を開始し、その後の格安航空会社の流れを先取りする存在となりました。中東では、カタール国営の航空会社、カタール航空が11月22日に産声を上げ、後に世界の主要航空会社へと成長していく第一歩を踏み出しました。

1993年は、航空機の開発、生産、運用といった技術的な進歩が着実に進む一方で、安全保障や政治情勢が航空の安全に影を落とす悲劇も起こり、航空界の発展が常に平坦な道ではないことを改めて示す一年でした。羽田空港の拡張や新規航空会社の設立は、来るべき航空輸送量の増加に対応するための重要な動きであり、未来に向けた投資の年でもありました。この年の出来事は、その後の航空史において様々な形で影響を与えていくことになります。

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