1998年の日本競馬

1998年（平成10年）の日本競馬界は、旧馬齢表記が用いられる中、多くの歴史的な出来事が刻まれ、後の競馬界に大きな影響を与える変革の年となりました。

栄光の「98世代」の躍進

この年、4歳（旧表記）を迎えた競走馬たちは、後に「98世代」と呼ばれ、その後のクラシック戦線や古馬戦線で主役を張るスターホースを多数輩出しました。セイウンスカイ、スペシャルウィーク、キングヘイロー、グラスワンダー、エアジハード、ファレノプシスといった面々が、この世代を代表する存在として競馬ファンを魅了しました。

世界への挑戦とGI制覇

日本競馬が世界へその歩みを進めたのもこの年です。安田記念を制したタイキシャトルがフランス遠征を敢行。ジャック・ル・マロワ賞への出走を表明します。その約1週間前、安田記念ではタイキシャトルに敗れたシーキングザパールが、同じフランスのモーリス・ド・ゲスト賞（芝1300m）を制覇。これが日本調教馬による記念すべき初の海外GI勝利となりました。

続くジャック・ル・マロワ賞では、タイキシャトルが圧倒的な単勝支持に応えて優勝。秋にはマイルチャンピオンシップも圧勝し、短距離馬としては史上初めてJRA賞年度代表馬に選出される快挙を成し遂げました。

さらに、ジャパンカップを制したエルコンドルパサーも、翌年の海外長期遠征を発表。これらの挑戦は、日本競馬の国際的な地位向上に向けた大きな一歩となりました。

二人の名手、GI勝利数で激突

この年、JRAのGIレースにおいては、タイキシャトルの主戦騎手であった岡部幸雄と、シーキングザパールの主戦騎手である武豊が、通算GI勝利数を巡って激しいデッドヒートを繰り広げました。春のフェブラリーステークスで岡部騎手が通算26勝目を挙げれば、桜花賞では武豊騎手が25勝目。そして、武豊騎手は念願の日本ダービー初制覇をスペシャルウィークで飾り、26勝目で岡部騎手に並びます。その後も安田記念（岡部27勝）、秋華賞（武豊27勝）、マイルチャンピオンシップ（岡部28勝）と、GIタイトルを分け合い、最後までその争いは注目を集めました。

サイレンススズカ、輝きと悲劇

明けて5歳となったサイレンススズカは、独特の大逃げ戦法を武器に破竹の快進撃を続けました。バレンタインステークスでの勝利を皮切りに、中山記念、小倉大賞典を連勝。金鯱賞では重賞史上稀に見る大差勝ちを収め、芝2000mの日本レコードを更新しました。宝塚記念では鞍上が南井克巳騎手に替わったにも関わらず、前年の年度代表馬エアグルーヴや天皇賞（春）勝ち馬メジロブライトといった強豪を抑えて1番人気に推され、ここでも見事に勝利。秋の毎日王冠でも、強敵グラスワンダーやエルコンドルパサーを寄せ付けず完勝し、これで6連勝を達成。

迎えた天皇賞（秋）では、単勝1.2倍という圧倒的な支持を受け、ライバル不在とも思える逃げを打っていましたが、レース中に左前脚に粉砕骨折を発症し、競走中止。予後不良と診断され、多くのファンに衝撃と悲しみを与えつつ、その短い生涯を終えました。その圧倒的なパフォーマンスは、JRA賞特別賞として讃えられました。

多彩な出来事と記録

1998年には、これらトップクラスの競走馬や騎手の活躍以外にも、様々な出来事がありました。スタートで大きく出遅れるハプニングや、JRA史上最高馬体重での出走記録更新。ダートグレード競走では、地元所属のリバーセキトバが黒船賞を制し、中央競馬時代のファンを沸かせました。日経賞では重賞史上最高となる馬連配当が飛び出す波乱も。

また、地方競馬共同の在宅投票システム「D-net」が運用を開始し、函館競馬場にはウッドチップコースが完成するなど、競馬を取り巻く環境も変化しました。南井克巳、佐々木竹見、安藤光彰、武豊といった多くの騎手が通算勝利記録を達成。特に安藤光彰・勝己騎手は日本競馬史上初の兄弟2000勝騎手となりました。武豊騎手は最年少・最速でのJRA通算1500勝も達成しましたが、GIでの降着により騎乗停止処分を受けるという出来事もありました。

この年には、ナリタブライアンが病気のため若くしてこの世を去り、多くのファンが悼みました。また、日高大洋牧場での火災により、多くの繁殖牝馬が犠牲となる悲しい事故も発生しています。

海外からはチーフベアハートが種牡馬として導入され、日本競馬の血統の多様化に貢献しました。そして、短期免許で騎乗したマイケル・ロバーツ騎手が、アドマイヤコジーンやナリタホマレでGIを制覇。外国人騎手による日本馬でのGI制覇はこれが史上初でした。

この年生まれた競走馬たちの中には、後にクラシックや古馬戦線で活躍するマンハッタンカフェ、アグネスタキオン、クロフネ、ジャングルポケットといった名馬たちが名を連ねています。

様々な記録が生まれ、歴史的な快挙が達成され、そして悲劇も起こった1998年は、まさに日本競馬が新たな時代へと向かうための試練と飛躍の年であったと言えるでしょう。

主な表彰馬

- JRA賞年度代表馬：タイキシャトル
- JRA賞最優秀4歳牡馬：エルコンドルパサー
- JRA賞特別賞：サイレンススズカ
- NARグランプリ年度代表馬：アブクマポーロ

※馬齢は旧表記に基づきます。

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