2002年の日本競馬

2002年の日本競馬：変革と記録、そして別れの一年

2002年（平成14年）の日本競馬界は、多くの出来事が重なり、歴史に深く刻まれる一年となりました。その中でも最大のトピックは、東京競馬場の大規模な改修工事です。これにより、秋に例年東京競馬場で行われる主要な開催が、中山競馬場や新潟競馬場で代替されるという異例の事態となりました。

東京競馬場では、日本ダービーが行われる第3回開催終了後から、馬場およびスタンドの改修工事が本格的に実施されました。このため、秋の第4回および第5回東京開催は全て中山競馬場での代替開催となり、天皇賞（秋）は中山競馬場の芝2000mで実施されました。しかし、中山競馬場では距離設定が難しいジャパンカップは芝2200mに、ジャパンカップダートはダート1800mにそれぞれ距離が変更されて行われました。中山競馬場で天皇賞が開催されるのは実に35年ぶり、ジャパンカップおよびジャパンカップダートに至っては創設以来初めてのことでした。また、本来中山競馬場で開催される第4回開催の一部は新潟競馬場に移され、スプリンターズステークスが同競馬場初のGIレースとして開催される運びとなりました。

この年には、様々な分野で動きがありました。

年明けには、新潟県競馬が降雪により開催を中止し、そのまま廃止となるという出来事がありました。地方競馬全体としては、南関東公営競馬での三連複・三連単の発売開始、地方競馬振興企画会議の設置など新たな取り組みが行われましたが、島根県の益田競馬場が廃止され、年末には栃木県の足利競馬も廃止を表明するなど、厳しい経営環境が浮き彫りとなりました。

競走馬では、8歳牝馬のブロードアピールや9歳馬のゲイリーフラッシュが高齢での重賞勝利を飾るなど、ベテラン勢の活躍も目立ちました。また、GI4連勝のアグネスデジタル、多くのGIタイトルを獲得したテイエムオペラオー、メイショウドトウ、ステイゴールド、ウイングアローといった名馬たちがターフに別れを告げました。特にテイエムオペラオーとメイショウドトウの同時引退式は多くのファンの記憶に残るものでした。

騎手では、武豊騎手が史上最速・最年少でJRA通算1万回騎乗を達成するという偉業を成し遂げましたが、その翌日に落馬による骨盤骨折という重傷を負ってしまいます。誰もが長期離脱を心配しましたが、驚異的な回復力で早期に復帰を果たし、すぐに重賞を制覇。日本ダービーではタニノギムレットを勝利に導き、史上初のダービー3勝目を最速で達成しました。秋には史上最速・最年少でJRA通算2000勝を達成するなど、怪我を乗り越えた活躍は多くの感動を与えました。また、平地・障害両方で100勝を達成した岡冨俊一騎手、史上初の女性騎手による重賞制覇を中山大障害で成し遂げたロシェル・ロケット騎手など、記録達成が相次ぎました。

海外遠征も積極的に行われ、4月の香港クイーンエリザベス2世カップではエイシンプレストンが優勝し、アグネスデジタルが2着に入るという、日本調教馬による海外G1ワンツーフィニッシュの快挙を達成しました。一方、凱旋門賞に挑戦したマンハッタンカフェは残念ながら敗れ、レース後に屈腱炎が判明し、引退となりました。

秋の主要GIは代替開催の舞台で熱戦が繰り広げられました。新潟で初のGIとなったスプリンターズステークスはビリーヴが制し、サンデーサイレンス産駒にとって初の短距離GIタイトルをもたらしました。中山競馬場で35年ぶりに開催された天皇賞（秋）ではシンボリクリスエスが優勝し、鞍上の岡部幸雄騎手は自身の持つ最年長GI勝利記録を更新。史上4人目となる「4つの競馬場で天皇賞制覇」という珍しい記録も樹立しました。エリザベス女王杯では、3歳馬のファインモーションが無敗のまま優勝し、古馬に開放された1996年以降で初めて3歳馬がこのレースを制しました。年末の2歳GIでは、福永祐一騎手が朝日杯フューチュリティステークスと阪神ジュベナイルフィリーズを連勝し、JRA史上初となる2歳GI牡牝両制覇を達成。有馬記念はシンボリクリスエスが快勝し、オリビエ・ペリエ騎手が外国人騎手として初めての有馬記念優勝を果たしました。

競馬界にとって大きな出来事となったのは、8月に日本競馬に絶大な影響を与えた不世出の名種牡馬サンデーサイレンスがこの世を去ったことです。彼の死は多くの関係者やファンに衝撃を与えました。また、将来の日本の生産界を担う存在として、アメリカからウォーエンブレムが約20億4000万円、スクワートルスクワートが高額で購入・輸入されました。一方で、ナリタブライアンなどを生産した名門・早田牧場が自己破産を申請するという衝撃的なニュースもありました。

馬券関連では、三連複や三連単の試験発売が始まり、後に全国に拡大されました。8月には大井競馬場で三連単が日本競馬史上最高額となる975万円超の配当を記録し、ファンの注目を集めました。また、ブラウザ付携帯電話による携帯版IPATが本格運用されるなど、馬券購入の利便性も向上しました。

この年に誕生した馬の中から、後に日本競馬史に名を刻むディープインパクトが誕生したことも記憶しておくべきでしょう。

JRA賞年度代表馬には、天皇賞（秋）と有馬記念を制したシンボリクリスエスが選出されました。NARグランプリ年度代表馬は、地方競馬の雄トーホウエンペラーが受賞しました。

2002年は、施設の改修というハード面の変化に加え、スターホースの引退、大種牡馬の死、記録的な活躍を見せた騎手の落馬と復活劇、そして新たな記録の数々など、多くの出来事が凝縮された、まさに日本競馬の歴史における節目の年と言えるでしょう。

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