2009年の文学

2009年の文学

2009年（平成21年）の文学界は、国内外で様々な動きが見られました。中でも特筆すべきは、村上春樹の新作長編の発表と、それが引き起こした社会現象です。また、権威ある国内外の文学賞が相次いで発表され、新たな才能の登場や既存作家の再評価が進みました。惜しくもこの年に永眠された文学に関わる多くの人々も追悼されます。

主な出来事

年明け早々、2008年下半期の第140回芥川賞・直木賞の選考会が開催されました。芥川賞は津村記久子氏の『ポトスライムの舟』、直木賞は天童荒太氏の『悼む人』と山本兼一氏の『利休にたずねよ』が受賞しました。続く上半期の第141回では、芥川賞に磯崎憲一郎氏の『終の住処』、直木賞に北村薫氏の『鷺と雪』が選ばれています。

国際的なニュースとしては、大江健三郎氏の小説『﨟たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』が中国の「21世紀年度最優秀外国小説」に選ばれ、日本人としては初めての受賞となりました。また、村上春樹氏はイスラエルのエルサレム賞に選出され、受賞スピーチも大きな話題を呼びました。

世界的なベストセラー作家であるJ・K・ローリング氏は、子どもたちに読書の喜びを広めた功績が称えられ、フランスのレジオンドヌール勲章（シュヴァリエ）を受章しています。

2009年の日本の出版界で最も大きな出来事の一つは、村上春樹氏の5年ぶりとなる長編小説『1Q84』BOOK1, BOOK2の刊行でした。発売前から予約が殺到し、異例の発売前増刷が決定。発売後も驚異的な売れ行きを見せ、わずか2週間足らずで上下巻合計100万部を突破するという記録的なヒットとなりました。同書は年間ベストセラーでも総合1位を記録し、社会現象とも言える広がりを見せました。

秋には、ノーベル文学賞がドイツの女性作家ヘルタ・ミュラー氏に授与されることが発表されました。

文学に関連する記念碑の建立もありました。岐阜県岐阜市には、川端康成の小説『篝火』にちなんだ川端康成と伊藤初代の「篝火の像」が設けられました。

主な文学賞

2009年に発表された国内外の主要な文学賞は以下の通りです。

日本国内
芥川賞（第140回）：津村記久子『ポトスライムの舟』
直木賞（第140回）：天童荒太『悼む人』、山本兼一『利休にたずねよ』
芥川賞（第141回）：磯崎憲一郎『終の住処』
直木賞（第141回）：北村薫『鷺と雪』
谷崎潤一郎賞（第45回）：該当作なし
泉鏡花文学賞（第37回）：千早茜『魚神』
群像新人文学賞（第52回）：永岡杜人『言語についての小説―リービ英雄論』
野間文芸新人賞（第31回）：村田沙耶香『ギンイロノウタ』
小林秀雄賞（第8回）：水村美苗『日本語が亡びるとき』
本屋大賞（第6回）：湊かなえ『告白』

日本国外
ノーベル文学賞：ヘルタ・ミュラー
ブッカー賞：ヒラリー・マンテル『Wolf Hall』
ゴンクール賞：マリー・ンディアイ『Trois femmes puissantes』
イグノーベル賞（文学賞）：アイルランドの警察

話題となった出版物（一部）

多くの作品が刊行された中で、『1Q84』の他、湊かなえ氏のベストセラー『告白』、冲方丁氏の『天地明察』、小川洋子氏『猫を抱いて象と泳ぐ』、川上未映子氏『ヘヴン』、三浦しをん氏『神去なあなあ日常』などが注目を集めました。小説以外では、内田樹氏『日本辺境論』や加藤陽子氏『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』といったノンフィクション・評論、斉藤里恵氏『筆談ホステス』なども話題となりました。

永眠された方々（一部）

2009年には、文学や関連分野で活躍された多くの方々が逝去されました。国内では、推理作家の泡坂妻夫氏、小説家・評論家の栗本薫氏、SF作家の伊藤計劃氏、小説家の庄野潤三氏、原田康子氏、翻訳家の鈴木主税氏などが鬼籍に入られました。海外では、アメリカの作家ジョン・アップダイク氏、スーダンの作家アッ＝タイーブ・サーレフ氏、フランスの社会人類学者クロード・レヴィ＝ストロース氏など、様々な国の著名な書き手や研究者がその生涯を終えました。

2009年は、新たなベストセラーの誕生、国際的な舞台での日本人作家の活躍、そして多くの才能の喪失と、文学界にとって多様な出来事があった一年でした。

[関連項目]
文学賞の一覧
2009年の出版

もう一度検索