2010年ミャンマー総選挙
2010年11月7日、ミャンマー連邦では新たな国政の枠組みを定める総選挙が実施されました。これは、2008年に採択された新憲法に基づき、複数政党制の下で行われた初の選挙であり、当時のミャンマー当局はこれを「民主化へのロードマップ」の重要な一歩と位置づけていました。
この選挙では、二院制の連邦議会を構成する人民代表院と民族代表院、そして国内14の地域および州議会の議員が同時に選ばれました。有権者は原則として各議会に1票ずつ、合計3票を投じることができましたが、一定の人口規模を持つ少数民族の有権者は、さらに少数民族代表を選出するための1票を加えた合計4票を投じました。特筆すべきは、議席全体の4分の1が選挙によらず軍人に割り当てられるという、軍部の影響力を強く残した制度設計でした。
長らく国を統治してきた軍事政権の最高指導者、タン・シュエ国家平和発展評議会議長は、この総選挙後に引退する意向を示唆していましたが、「必要に応じて国政に参加し奉仕する」とも発言しており、新政府発足後も軍部が政治に対して強い影響力を持ち続けることが予想されていました。一方、ミャンマー民主化運動の象徴的存在であるアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟（NLD）は、この選挙をボイコットする決定を下し、選挙前の2010年5月には政党としての登録を失い解党しました。アウンサンスーチー氏自身の投票権についても一時的な混乱がありましたが、最終的には認められたものの、本人はボイコットの立場を貫き投票を行いませんでした。
選挙への参加を申請した政党は47に上りましたが、最終的に選挙に参加したのは37政党でした。一部の民主化勢力からは、立候補の届出期間が短すぎるとの批判も挙がりました。主な参加政党としては、軍事政権の流れを汲む巨大政党である連邦団結発展党（USDP）、旧政権政党であるビルマ社会主義計画党（BSPP）の後継政党である国民統一党（NUP）、そして旧NLDから分かれて選挙参加を選んだ国民民主勢力（NDF）などがありました。USDPは、軍政時代に蓄えた豊富な資金力と組織力を背景に、多くの選挙区に候補者を擁立し、マイクロクレジットや物品の提供などで支持を拡大しており、選挙前から議会の多数を占めるとの見方が有力でした。
各党はそれぞれの政策や理念を掲げて選挙戦を展開しました。USDPは複数政党制民主主義や市場経済の確立、労働者の地位向上、信教の自由などを主張しましたが、彼らの選挙ポスターに謳われた「国民が第一」というスローガンに対して、市民の間からは失望や嘲りといった否定的な反応が多く見られたとする報道もありました。NDFは少数民族問題や人権問題を解決すべきと訴えましたが、NLDから分裂して選挙に参加した背景から、その主張の説得力は限定的とされました。選挙戦は、USDPを主軸に、NUP、そして小規模な民主化政党や少数民族政党が競い合う構図となりました。
2010年11月7日の投票日には、約2900万人の有権者が参加しました。実施された選挙区は1154、立候補者数は3069名でした。投票率は人民代表院で77.3％、民族代表院で76.8％、地域・州議会で76.6％と、全体的に高い水準となりました。
選挙結果は、事前の予想通り、軍事政権を母体とするUSDPの圧倒的な勝利に終わりました。選挙管理委員会による公式発表を待たずに、USDPは独自集計に基づいて「議席の8割を獲得した」と勝利宣言を行いました。NLDから離脱して参加したNDFや、旧政権政党の後継であるNUPは、議席獲得が少数にとどまり大敗を喫しました。一方で、シャン民族民主党やラカイン民族発展党といった少数民族政党は、それぞれの活動地域で善戦し、一定の議席を獲得しました。NDFなどの民主化勢力からは選挙における不正が強く訴えられましたが、一部の少数民族政党は不正を認識しつつも、不服申し立ては行わない姿勢を示しました。
この選挙を受けて、新たな政府が樹立される運びとなりました。選挙後には国名が「ミャンマー連邦」から「ミャンマー連邦共和国」に変更されるとともに、国旗も変更される予定でしたが、これは総選挙よりも前に既に実施されていました。
国際社会からの選挙への反応は分かれました。国連や多くの先進国は、主要な反軍事勢力が排除された選挙であるとして批判的な見解を示しました。特にフィリピンは「茶番劇」、アメリカは「見かけ倒し」と厳しく評価しました。一方、東南アジア諸国連合（ASEAN）は、国民和解と民主化プロセスの継続を促す声明を出し、中国は選挙が平和的に行われたとの認識を示しました。
ミャンマー選挙管理委員会が外国の選挙監視団や記者の受け入れを拒否したこともあり、選挙の正当性については国際的に強い疑問符がつけられる結果となりました。
2010年の総選挙は、軍事政権が主導する形で「民主化」への一歩として行われましたが、軍部の強固な支配構造と、主要な民主化勢力の排除、国際的な正当性への疑問など、ミャンマーの民主化プロセスにおける複雑さと多くの課題を浮き彫りにしました。
この選挙では、二院制の連邦議会を構成する人民代表院と民族代表院、そして国内14の地域および州議会の議員が同時に選ばれました。有権者は原則として各議会に1票ずつ、合計3票を投じることができましたが、一定の人口規模を持つ少数民族の有権者は、さらに少数民族代表を選出するための1票を加えた合計4票を投じました。特筆すべきは、議席全体の4分の1が選挙によらず軍人に割り当てられるという、軍部の影響力を強く残した制度設計でした。
長らく国を統治してきた軍事政権の最高指導者、タン・シュエ国家平和発展評議会議長は、この総選挙後に引退する意向を示唆していましたが、「必要に応じて国政に参加し奉仕する」とも発言しており、新政府発足後も軍部が政治に対して強い影響力を持ち続けることが予想されていました。一方、ミャンマー民主化運動の象徴的存在であるアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟（NLD）は、この選挙をボイコットする決定を下し、選挙前の2010年5月には政党としての登録を失い解党しました。アウンサンスーチー氏自身の投票権についても一時的な混乱がありましたが、最終的には認められたものの、本人はボイコットの立場を貫き投票を行いませんでした。
選挙への参加を申請した政党は47に上りましたが、最終的に選挙に参加したのは37政党でした。一部の民主化勢力からは、立候補の届出期間が短すぎるとの批判も挙がりました。主な参加政党としては、軍事政権の流れを汲む巨大政党である連邦団結発展党（USDP）、旧政権政党であるビルマ社会主義計画党（BSPP）の後継政党である国民統一党（NUP）、そして旧NLDから分かれて選挙参加を選んだ国民民主勢力（NDF）などがありました。USDPは、軍政時代に蓄えた豊富な資金力と組織力を背景に、多くの選挙区に候補者を擁立し、マイクロクレジットや物品の提供などで支持を拡大しており、選挙前から議会の多数を占めるとの見方が有力でした。
各党はそれぞれの政策や理念を掲げて選挙戦を展開しました。USDPは複数政党制民主主義や市場経済の確立、労働者の地位向上、信教の自由などを主張しましたが、彼らの選挙ポスターに謳われた「国民が第一」というスローガンに対して、市民の間からは失望や嘲りといった否定的な反応が多く見られたとする報道もありました。NDFは少数民族問題や人権問題を解決すべきと訴えましたが、NLDから分裂して選挙に参加した背景から、その主張の説得力は限定的とされました。選挙戦は、USDPを主軸に、NUP、そして小規模な民主化政党や少数民族政党が競い合う構図となりました。
2010年11月7日の投票日には、約2900万人の有権者が参加しました。実施された選挙区は1154、立候補者数は3069名でした。投票率は人民代表院で77.3％、民族代表院で76.8％、地域・州議会で76.6％と、全体的に高い水準となりました。
選挙結果は、事前の予想通り、軍事政権を母体とするUSDPの圧倒的な勝利に終わりました。選挙管理委員会による公式発表を待たずに、USDPは独自集計に基づいて「議席の8割を獲得した」と勝利宣言を行いました。NLDから離脱して参加したNDFや、旧政権政党の後継であるNUPは、議席獲得が少数にとどまり大敗を喫しました。一方で、シャン民族民主党やラカイン民族発展党といった少数民族政党は、それぞれの活動地域で善戦し、一定の議席を獲得しました。NDFなどの民主化勢力からは選挙における不正が強く訴えられましたが、一部の少数民族政党は不正を認識しつつも、不服申し立ては行わない姿勢を示しました。
この選挙を受けて、新たな政府が樹立される運びとなりました。選挙後には国名が「ミャンマー連邦」から「ミャンマー連邦共和国」に変更されるとともに、国旗も変更される予定でしたが、これは総選挙よりも前に既に実施されていました。
国際社会からの選挙への反応は分かれました。国連や多くの先進国は、主要な反軍事勢力が排除された選挙であるとして批判的な見解を示しました。特にフィリピンは「茶番劇」、アメリカは「見かけ倒し」と厳しく評価しました。一方、東南アジア諸国連合（ASEAN）は、国民和解と民主化プロセスの継続を促す声明を出し、中国は選挙が平和的に行われたとの認識を示しました。
ミャンマー選挙管理委員会が外国の選挙監視団や記者の受け入れを拒否したこともあり、選挙の正当性については国際的に強い疑問符がつけられる結果となりました。
2010年の総選挙は、軍事政権が主導する形で「民主化」への一歩として行われましたが、軍部の強固な支配構造と、主要な民主化勢力の排除、国際的な正当性への疑問など、ミャンマーの民主化プロセスにおける複雑さと多くの課題を浮き彫りにしました。
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