タン・シュエ

タン・シュエ：ミャンマーの独裁者

タン・シュエ（Than Shwe）は、1933年2月2日生まれのミャンマーの軍人、政治家です。ミャンマー国軍の最高位である上級大将を務め、国家元首として長きにわたり権力を握りました。彼の経歴、政治手法、そして退任後の生活について詳しく見ていきましょう。

軍人としてのキャリア

タン・シュエは、マンダレー地方域の農家に生まれました。1951年に高校を卒業後、郵便局員を経て、士官訓練学校に入学し、1953年に少尉として軍に入隊しました。彼の軍歴は平凡で、上官に忠実な兵士であったとされています。しかし、ビルマ共産党（CPB）や少数民族武装勢力に対するプロパガンダ作戦を統括する陸軍心理部での勤務経験や、ビルマ社会主義計画党（BSPP）の党員を養成する中央政治学大学での勤務経験は、彼の後の政治活動に大きな影響を与えたと考えられています。

タン・シュエは着実に昇進し、1981年にはBSPP党の中央委員会委員に選出され、1985年には国軍副総司令官に就任しました。1988年の8888民主化運動の際には、彼の娘が民主化運動に参加している学生たちを心配していたというエピソードも残っています。この民主化運動は、国軍のクーデターにより終結し、タン・シュエは国家秩序回復評議会（SLORC）の委員となりました。

国家平和発展評議会（SPDC）議長へ

1992年、タン・シュエはSLORC議長であったソウマウンの辞任を受け、国軍最高司令官に就任しました。1997年には、SLORCが国家平和発展評議会（SPDC）に改組され、タン・シュエが議長となり、軍政のトップに立ちました。タン・シュエは、メディアへの露出を避け、外交を第1書記のキンニュンに任せていましたが、実際にはSPDCの最高権力者として国政を掌握していました。彼は経済改革を進め、ある程度の経済成長を実現しましたが、専門家からはその数字の信頼性や国民への恩恵が疑われています。

また、キンニュン主導で多くの少数民族武装勢力との停戦合意を締結し、国軍の強化を図りました。国軍系の企業を設立し、莫大な利益を上げ、国軍の支配体制を強化しました。欧米諸国からの経済制裁を受ける中で、中国との関係を深めた時期でもありました。

2002年には、ネウィンの義理の息子と孫たちがクーデターを計画した疑いで逮捕され、ネウィン自身も自宅軟禁下に置かれました。この事件を機に、タン・シュエは国軍内部の実力者を排除し、自らの権力基盤を強固なものにしました。

2004年には、軍政の対外的な顔であったキンニュンが自宅軟禁下に置かれ、タン・シュエはさらに権力を掌握しました。2005年には、首都をネピドーに遷都し、その理由は軍事的な理由や占星術の導きなど様々に憶測されました。

民政移管と退任

タン・シュエは、権力基盤を固める一方で、民政移管の準備を進めました。2008年には、国軍の政治関与を認める新憲法案を国民投票で採択させました。しかし、自ら大統領になることはなく、テイン・セインを大統領に、ミン・アウン・フラインを国軍総司令官に指名し、2010年に表舞台から去りました。退任後、タン・シュエは政治に口出しすることなく、隠遁生活を送っていると伝えられています。

人権侵害

タン・シュエのSLORC/SPDC時代は、内戦に伴う殺人、強姦、強制徴兵などの人権侵害が横行し、国際社会から強い非難を浴びました。アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際人権団体からの批判も多く、2010年には、フォーリン・ポリシー誌の「世界最悪の独裁者」ランキングで第3位に選ばれました。

特にアウンサンスーチーと彼女が率いる国民民主連盟（NLD）に対する弾圧は執拗で、2003年にはスーチーが乗った車が襲撃され、多数の死者が出る事件が発生しました。また、2007年のサフラン革命と呼ばれる僧侶による反政府デモは容赦なく弾圧されました。

人物像

タン・シュエは、軍人時代は仕事が終わると真っ直ぐ家に帰り、同僚と酒を飲むことはありませんでした。同僚とは友好的で、家族も人柄が良いとされ、家族ぐるみでよく旅行に出かけ、一般の人々にも気さくに声をかけていました。仏教と政治についてよく語り、国営紙に隅々まで目を通し、政治の話を始めると止まらなかったとされています。

キンマを好んで噛み、口を赤く染めていたそうですが、ある時期を境に突然やめています。マンチェスター・ユナイテッドのファンであり、英語を話します。国軍のラッキーナンバーは9ですが、タン・シュエ自身のラッキーナンバーは11と言われています。妻のチャインチャインは占星術に傾倒しており、若い頃、タン・シュエが将来ビルマの王になるという予言を受けたとされています。

私生活

タン・シュエは、1956年にチャインチャインと結婚しました。2人の間には5人の娘と3人の息子がいます。娘の一人の結婚式は、貧困に苦しむ国民を激怒させるほど豪華なものであったと伝えられています。孫がマンチェスター・ユナイテッドの買収をねだったという報道もありました。

年譜

1951年 - 高校卒業
1952年から1953年 - メイッティーラの郵便局勤務
1953年 - 士官訓練学校（OTS）9期生を修了。少尉として第1歩兵大隊に配属
1958年から1962年 - 地方心理戦部隊所属中隊長に就任
1962年から1966年 - 中央政治学大学教員、部長
1966年から1970年 - 第101軽歩兵大隊司令部第2作戦参謀
1970年から1975年 - 第1歩兵大隊大隊長
1975年から1977年 - 陸軍参謀本部作戦局第1作戦参謀
1977年から1980年 - 第88歩兵師団副師団長
1980年から1983年 - 第88歩兵師団師団長
1981年 - 第4回BSPP党大会で中央委員会委員に選出
1983年から1985年 - 南西軍管区司令官
1985年 - 国軍副総司令官
1988年 - 国家法秩序回復評議会（SLORC）委員
1992年 - 国家平和発展評議会（SPDC）議長、国軍総司令官、首相、国防大臣
2003年 - 首相辞任
* 2010年 - SPDC議長、国軍総司令官、首相辞任


タン・シュエは、ミャンマーの歴史において重要な人物であり、その行動は国内外に大きな影響を与えました。彼の政治的な遺産は、今後も議論され続けるでしょう。

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