2020 BX12

2020 BX12

2020 BX12は、太陽系の内側に位置する地球近傍小惑星の一つで、アポロ群に分類されます。その軌道が地球の軌道と交差するため、潜在的に地球へ衝突する可能性を持つ天体として「潜在的に危険な小惑星（PHA）」に指定されています。しかし、詳細な軌道解析の結果、少なくとも今後200年間にわたり、地球に差し迫った衝突リスクはないとされています。この小惑星の最も特筆すべき特徴は、自身の周りを公転する伴天体、すなわち小さな自然衛星を持つ二重小惑星である点です。

発見

この天体は、2020年1月27日にハワイ州のマウナロア観測所で実施された「小惑星地球衝突最終警報システム（ATLAS）」による探査観測中に発見されました。ATLASは、地球へ接近する潜在的に危険な小惑星を早期に発見・追跡することを目的とした自動観測システムです。2020 BX12の発見には、ATLASプロジェクトに従事するラリー・デノー氏、ジョン・トンリー氏、アレン・ハインツェ氏、ヘンリー・ウェイランド氏らの天文学者チームが貢献しました。

発見後、その存在は小惑星センターのNEOCP（Near-Earth Object Confirmation Page）を通じて速やかに天文学コミュニティに報告され、世界各地の観測施設による追加観測が行われました。これらの追跡観測データに基づき、2020 BX12の軌道が精度よく決定され、発見からわずか3日後の2020年1月30日に小惑星センターから正式に発見が公表されるとともに、仮符号「2020 BX12」が付与されました。

命名について

発見された小惑星には、まず国際的な規則に則って、発見年や発見時期を示すアルファベットなどを含む仮符号が付与されます。2020 BX12という名称も、この仮符号です。天体の軌道が長期にわたって安定して追跡され、確定すると、小惑星センターから正式な小惑星番号が与えられます。小惑星番号が付与された後、発見者や関係者はその天体に正式な名前を提案する資格を得ます。したがって、2020 BX12は現時点ではまだ仮符号の段階にあります。

軌道と分類

2020 BX12は、太陽の周りを楕円軌道で公転しており、その平均軌道半径は約1.60天文単位（au）、公転周期は約2.02年です。この軌道は非常に偏平しており（軌道離心率約0.757）、また黄道面に対しても大きく傾斜しています（軌道傾斜角約40度）。軌道の一端である近日点では太陽から約0.76 auまで接近し、これは金星の軌道の内側にあたります。もう一端の遠日点では太陽から約2.44 auまで遠ざかり、これは火星の軌道の外側にあたります。

このように地球の軌道と交差する軌道を持つため、2020 BX12は地球近傍小惑星のアポロ群に分類されます。地球との最小軌道交差距離（MOID）は約0.002 au（約30万キロメートル）と非常に小さく、潜在的に危険な小惑星（PHA）の定義（MOID 0.05 au未満かつ絶対等級22未満）を満たすため、PHAに指定されています。しかし、NASAのSentryリスクテーブルなどの将来の衝突リスク評価システムにおいては、今後200年間で地球から0.04 au（約600万キロメートル）以内に接近する可能性は低いと予測されており、具体的な危険は認められていません。

物理的特性

2020年2月上旬、地球への接近を利用して、プエルトリコにあるアレシボ天文台の強力なレーダー観測が行われました。この観測により、2020 BX12の物理的な特徴に関する知見が得られました。レーダー観測データからは、この小惑星の直径が少なくとも165メートル以上であると推定されています。また、2日間にわたる観測から、小惑星の自転周期は最大で約2.8時間程度であることが示唆されています。

衛星の存在

2020 BX12に関する最も驚くべき発見は、その周りを公転する小さな自然衛星の存在です。この衛星は、2020年2月10日にアレシボ天文台によってその発見が発表されました。この伴天体は、主星である2020 BX12から約360メートルの距離で周回していると推定されています。小惑星センターの命名規則に従い、この衛星にはS/2020 (2020 BX12) 1という仮称が付与されています。二重小惑星は地球近傍小惑星全体のごく一部に過ぎず、その形成や進化のメカニズムはまだ完全に解明されていません。2020 BX12のような天体の詳細な観測は、これらの研究にとって非常に重要です。

地球および火星への接近

2020 BX12は、発見直後の2020年2月3日18時56分（協定世界時UTC）に地球へ最接近しました。この時の地球からの距離は約0.02915 au（約436万キロメートル）でした。最接近時、小惑星は地球に対して秒速約25.3キロメートル（時速約57,000マイル）という高速で移動しており、その見かけの明るさは約15.7等級でしたが、これは肉眼で観測することは不可能な暗さです。この接近は、アレシボ天文台が小惑星とその衛星をレーダーで詳細に観測する絶好の機会となりました。

これまでの観測史上、最も地球に接近したのは1931年2月1日で、この時は約0.009 au（約130万キロメートル）まで近づきました。今後の予測では、少なくとも次の200年間においては、2020年2月の接近時よりも地球に近づくことはないとされています。2020 BX12は、2020年3月21日に近日点を通過した後、太陽から遠ざかる軌道に入り、同年6月28日には火星に約0.042 auまで接近しました。その後の地球への接近としては、2022年2月（約0.18 au）や2024年2月（約0.34 au）などが予測されています。

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