2022年ロシアのウクライナ侵攻に対するロシアでの反戦・抗議運動

2022年ロシアのウクライナ侵攻に対するロシアでの反戦・抗議運動

2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ロシア国内および国外のロシア人による大規模な反戦・抗議運動を引き起こしました。本稿では、これらの運動の詳細、背景、影響について解説します。

国民による抗議運動

侵攻開始直後から、ロシア全土で反戦デモが展開されました。2月24日には、モスクワやサンクトペテルブルクなど主要都市を中心に数千人が集まり、抗議活動を行いました。SNS上では、侵攻を非難する声が多数を占め、「プーチンは戦争犯罪者だ」「独裁者は戦争を正当化する」といった厳しい批判が相次ぎました。人権団体OVD-Infoによると、初日だけで58都市で1800人以上が拘束されました。

2月25日以降も抗議活動は継続し、「Нет войне!」（戦争反対）のスローガンを掲げたデモや、小規模な抗議活動が各地で行われました。2月24日から26日の間には、3000人以上が拘束されています。ボリス・ネムツォフの命日である2月27日には、彼が暗殺された場所で抗議活動が行われました。

3月には、抗議活動はさらに拡大し、13日には37都市で900人以上が拘束されました。侵攻開始から3月13日までに、約1万5千人が逮捕されたと報告されています。

4月には、ブチャでの虐殺を非難する抗議として、モスクワのランドマークを背景に、拘束された男性を模した写真が公開されました。

9月には、部分的動員令の発令をきっかけに、再び大規模な反戦デモが勃発。21日には1400人以上が、24日にも700人以上が拘束されました。この際、拘束されたデモ参加者の一部がそのまま動員されるという事態も発生しました。

請願書と公開書簡

侵攻前から、一部のロシア国民は反戦運動を開始していました。1月末には「ただ、戦争さえなければ！」という公開書簡が発表され、2月上旬には150人以上が署名しました。侵攻開始後、人権活動家レフ・ポノマリョフが発表した戦争反対の請願書には、24日中に28万9千人以上が署名しました。また、プーチン大統領の弾劾を求める請願書には、27日までに20万以上の署名が集まりました。

2月24日には、モスクワを含む複数の自治体の地方議員100人以上が、政府の「特別な軍事作戦」を非難する公開書簡に署名しました。IT業界、医療従事者、建築家、教員、芸術家、科学者など、各界の著名人も公開書簡や請願書を発表し、賛同の署名が集まりました。しかし、署名者は雇用主から圧力を受け、署名の撤回や職を失う事態も発生しました。

メディア

3月14日には、国営テレビ「第1チャンネル」のニュース番組で、編集者のマリーナ・オフシャンニコワが反戦メッセージを掲げるという事件が起こりました。彼女は「戦争反対、プロパガンダを信じないで、彼らはあなたに嘘をついている」と書かれた紙を掲げ、放送はすぐに録画映像に切り替えられました。オフシャンニコワは拘束され、取り調べを受けました。

在外ロシア人

国外に住むロシア人も反戦運動に積極的に参加しました。元チェス選手で人権活動家のガルリ・カスパロフは、西側諸国がプーチン政権を支援してきたと批判し、経済制裁を訴えました。作家のウラジーミル・ソローキンは、プーチン大統領を「狂った怪物」と非難し、歴史的な権力構造を批判しました。また、ロシア第1チャンネルの元パリ特派員ジャンナ・アガラコワは、政府のプロパガンダに加担できないとして辞職し、国家賞を返還しました。

作家のボリス・アクーニンは、国外に住むロシア人とともに「本当のロシア」というサイトを立ち上げ、ウクライナへの支援活動を展開しました。

侵攻を理由とする政治亡命

侵攻に反対し、政治亡命するロシア人も現れました。在ジュネーブ国連代表部のボリス・ボンダレフ参事官は、侵攻を「母国を恥じた」と批判し、欧米諸国にロシア外交官の亡命を促すための保護プログラムを呼びかけました。ガスプロムバンクの元副社長イゴール・ヴォロブエフは、自由ロシア軍団に加わり、故郷ウクライナを守るために戦うことを決意しました。また、元ロシア空挺軍兵士パベル・フィラティエフは、手記『ZOV』を出版し、フランスに亡命を申請しました。

グリーン・リボン

侵攻反対の意思表示として、緑色のリボンが用いられるようになりました。これは、ウクライナ国旗の青と黄色を混ぜると緑になることや、ゼレンスキー大統領の姓がロシア語の「緑」に似ていることに由来するとされています。緑色のリボンは街中に結ばれましたが、同時に嫌がらせの標的にもなり、自宅に「Z」マークがスプレーされたり、豚の生首が置かれたりするなどの事例も発生しました。

当局施設への攻撃

部分的動員令の発令後、徴兵事務所などの当局施設への攻撃が相次ぎました。放火事件が11都市で発生し、イルクーツク州では徴兵事務所の所長が銃撃される事件も発生しました。

新興富裕層の批判

オリガルヒの間でも、ウクライナ侵攻への批判の声が上がりました。アルミニウム大手ルサールの創業者オレグ・デリパスカは、侵攻を「途方もない間違い」だと非難しました。しかし、同時期には、オリガルヒたちの不審死が相次ぎました。

侵攻に対する声明

侵攻開始後、多くの公人や組織が抗議の声明を発表しました。共産党の国家院議員ミハイル・マトヴェエフは、軍事行動の即時停止を求めました。アレクセイ・ナワリヌイは、獄中から抗議運動の継続を呼びかけました。ヤブロコなどの政党も反戦を表明しました。また、スコルコボ財団の元代表アルカジー・ドヴォルコーヴィチは、「戦争は最悪のものだ」と発言したため、辞任を要求されました。

ヴァレリー・メラジェ、イヴァン・ウルガント、クセニヤ・ソブチャクなどの著名人は、SNS上で侵攻に反対しました。また、監督のエレーナ・コワルスカヤは、プーチン大統領を批判し辞職しました。ジャーナリストのエレナ・チェルネンコは、戦争を非難する書簡を公開し、ドミトリー・ムラトフは、戦争が第三次世界大戦につながる危険性を訴えました。フィギュアスケート選手のエフゲニア・メドベージェワや、テニス選手のアンドレイ・ルブレフも、SNSや試合後に反戦のメッセージを表明しました。国連の気候変動に関する政府間パネルのロシア代表オレグ・アニシモフは、謝罪とウクライナ侵攻への反対を表明しました。俳優のチュルパン・ハマートヴァは、ウクライナ侵攻に反対し亡命しました。

人権団体メモリアルは、戦争は人類に対する犯罪であると非難し、ゴルバチョフ財団も、早期の和平交渉を求めました。

ロシア政府は、侵攻に反対する「裏切り者」の市民権を剥奪することを提案し、マリーナ・オフシャンニコワを例に挙げました。

これらの出来事は、ロシア国内および国外で、ウクライナ侵攻に対する強い反対運動が存在し、多岐にわたる人々がそれぞれの立場から反戦を訴えていることを示しています。

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