2023年の日本競馬

2023年の日本競馬界総括

2023年（令和5年）の日本競馬界は、中央競馬（JRA）と地方競馬の両方において、様々な変更点や記録更新、そして注目すべき出来事が発生した一年でした。

JRAの主な動き

日本中央競馬会（JRA）は、年初の1月5日から年末の12月28日まで、年間を通じて競馬開催を実施しました。特に注目されたのは、約2年半の整備工事を終えた京都競馬場が4月22日に「センテニアル・パーク京都競馬場」としてグランドオープンしたことです。スタンドやパドックの改修、コースの一部変更などが行われ、西日本地区の開催日割はほぼ例年通りに戻されました。京都開催再開に伴い、天皇賞（春）、秋華賞、菊花賞といった主要GIレースなどが京都に舞台を戻しています。

GI競走に関しては、ジャパンカップや有馬記念の1着賞金が5億円に増額されるなど、多くのレースで賞金アップが図られました。また、3歳牡馬三冠達成ボーナスが3億円に、牝馬三冠には新たに1億円が付与されるなど、クラシック路線の価値がさらに高められました。フェブラリーステークスやジャパンカップなど一部のGI競走では、馬齢重量・基礎重量が1kg引き上げられました。

騎手や競走に関する制度面でも複数の変更がありました。騎手の健康と福祉を考慮し、平地競走における馬齢重量と最低負担重量が1kg引き上げられました（3歳馬の馬齢重量は2024年から適用）。また、見習騎手や女性騎手の減量制度が平地と障害競走で分離・細分化され、より実態に即した形に見直されました。ムチの連続使用回数制限が「1レース5回」に短縮されたことも特筆されます。

技術面では、レース中の競走馬の位置情報を高精度で把握する「競走馬トラッキングシステム」が本格導入され、テレビ中継などでも活用されました。また、一部のGI競走で騎手のヘルメットにカメラを装着する「ジョッキーカメラ」が導入され、臨場感あふれる映像が公開されました。キャッシュレス投票を推進する「UMACA投票」では、購入金額に応じてポイントが付与されるサービスが開始され、さらにスマートフォンから馬券購入が可能になる「UMACAスマート」も導入されるなど、利便性の向上が図られています。競馬場への入場システムもQRチケット方式に移行するなど、デジタル化が進みました。

2023年は競馬法が制定されてから100周年にあたり、これを記念した様々な事業が展開されました。記念競走の実施、企画展示、記念切手の発行などが行われ、競馬の歴史と文化を振り返る機会となりました。

一方で、厩舎従業員による春闘でのストライキ予告がありましたが、大半の労働組合と調教師会との間で妥結が成立し、開催への大きな影響は避けられました。また、複数のJRA所属騎手による調整ルームでのスマートフォン不適切使用問題が発生し、騎乗停止処分が科されるとともに、再発防止策として調整ルームへの通信機器持ち込みが原則全面禁止となりました。これは競馬の公正確保という点で大きな波紋を呼びました。

GIレースでの日本馬の活躍も特筆され、サウジカップやドバイワールドカップなど海外主要レースでウシュバテソーロやパンサラッサ、イクイノックスといった日本調教馬が勝利を収めました。また、地方競馬所属のマンダリンヒーローが米国サンタアニタダービーに遠征し、惜しくもハナ差の2着となる快挙を達成しました。

年間総売得金は3兆2869億円を超え、12年連続で前年を上回る記録を更新。リーディングジョッキーはクリストフ・ルメール騎手、リーディングトレーナーは杉山晴紀調教師がそれぞれ獲得しました。

地方競馬の主な動き

地方競馬全体も、2023年度の総売得金額が1兆888億円を超え、過去最高額を更新するなど、引き続き好調を維持しました。

ダート競走の体系整備が進行し、各地区で重賞競走の変更点が多数生じました。特に2歳馬の全国的な競走体系構築の一環として、「ネクストスター」シリーズが各地区で新設され、若駒の活躍の場が広がりました。また、南関東では雲取賞や京浜盃がJpn格付けされるなど、ダートグレード競走体系の再編も進みました。JBC競走は11月3日に大井競馬場で開催され、盛況を収めました。

各地区の開催成績では、ばんえい競馬、南関東の船橋・大井・浦和、名古屋、高知、佐賀が過去最高売得金を更新するなど、堅調な推移を見せました。浦和競馬場や水沢競馬場では走路照明設備が新設され、薄暮・ナイター開催が可能になるなど、施設の改善も進んでいます。

制度面では、南関東地区で馬のクラス編成をより公平かつ分かりやすくするため、「格付ポイント制」が導入されました。これは、競走結果に応じたポイントを付与してクラスを決定するもので、従来の番組賞金積算方式からの大きな変更です。

地方競馬でも様々な出来事がありました。ばんえい競馬や高知競馬で高額払戻金の記録が更新された一方、門別競馬場で多重落馬事故が発生するなど、アクシデントも発生しました。また、南関東や高知では騎手による携帯電話の不適切使用や暴行による逮捕といった不祥事も報じられ、競馬界全体の信頼に関わる問題として対応が求められました。

競馬場やウインズでは、UMACA投票の導入拡大やサービス向上、場外発売所の移転・閉鎖といった変化もありました。特に大井競馬場では、公営競技初となる現金投票端末へのPayPay導入や、外国人向けにフランスへの映像配信なども行われました。

記録と表彰

2023年は多くの記録が生まれました。JRAでは武豊騎手が史上初の通算2万4千回騎乗を達成し、横山典弘騎手は重賞最年長勝利記録を更新。川田将雅騎手はJRAの3歳GI全7競走完全制覇を史上4人目で達成するなど、ベテランから中堅までが活躍しました。地方競馬では川原正一騎手が重賞最年長勝利記録を大幅に更新。岩手競馬の山本聡哉騎手や笠松競馬の渡邊竜也騎手は年間最多勝記録を更新しました。佐賀競馬では日経ラジオ社による実況委託やメタバースイベント開催など、新たな試みも行われました。

主要な表彰では、JRA顕彰馬にアーモンドアイが選定。JRA賞は年度代表馬にイクイノックス、最多勝利騎手にクリストフ・ルメール騎手、最多勝利調教師に杉山晴紀調教師が選ばれました。NARグランプリでは年度代表馬にイグナイター、最優秀勝利回数騎手に吉村智洋騎手、最優秀勝利回数調教師に田中守調教師が選ばれるなど、各分野で活躍した人馬が讃えられました。

多くの新規騎手・調教師が誕生し、競馬界に新たな力が加わった一方で、長年貢献してきた名馬や競馬関係者が永眠し、惜しまれました。

2023年の日本競馬は、施設の近代化や制度の改革、技術の導入など、将来に向けた基盤整備が進むとともに、多くのドラマと記録が生まれた一年となりました。年間を通じてファンに娯楽を提供し、畜産振興にも貢献する競馬の役割が再確認されたと言えるでしょう。

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