22q11.2欠失症候群

22q11.2欠失症候群は、特定の遺伝子異常によって引き起こされる先天性の症候群の一つです。この症候群の原因は、私たちの体を構成する染色体のうち、第22番染色体の長腕にあるq11.2と呼ばれる領域に微細な欠失が生じることです。この欠失により、その領域に含まれる遺伝子の働きに異常が生じ、様々な身体的な特徴や健康上の問題が発生します。

以前はキャッチ=22症候群とも呼ばれていましたが、現在は原因となる染色体部位を示す22q11.2欠失症候群という名称がより一般的に用いられています。また、この症候群に含まれる病態として、DiGeorge症候群（副甲状腺・胸腺無形成症）が特に知られています。

主な特徴と症状

22q11.2欠失症候群の大きな特徴は、胎児期に形成される第三および第四鰓弓に由来する複数の臓器に発生異常や奇形が見られることです。これにより、多様な症状が現れます。かつてキャッチ=22症候群と呼ばれた由来ともなった、特に頻繁に見られる5つの主要な症状が挙げられます。

心血管系の異常 (Cardiac defects): 心臓や大血管の構造的な問題が見られます。ファロー四徴症、心室中隔欠損、大動脈離断症などが含まれます。
特有の顔貌 (Abnormal facies): 顔の輪郭やパーツに特徴的な所見が見られることがあります。
胸腺の低形成 (Thymic hypoplasia): 免疫機能の中心である胸腺の発達が不十分な場合があり、免疫不全を引き起こす可能性があります。
口蓋裂 (Cleft palate): 口の天井部分（口蓋）に裂け目がある状態です。口蓋帆の動きが不十分な鼻咽腔閉鎖不全を伴うこともあります。
低カルシウム血症 (Hypocalcemia): 副甲状腺の発達が不十分なためにホルモン分泌が低下し、血液中のカルシウム濃度が低くなることがあります。

かつての通称であるキャッチ=22症候群は、これら5つの症状の頭文字（CATCH）と、原因となる第22番染色体（22）に由来するとされ、同時にジョセフ・ヘラーの同名小説のタイトルとも重ねられたと言われています。しかし、この言葉には「逃れられない窮地」という意味合いも含まれることから、現在では原因を示す22q11.2欠失症候群という名称が一般的です。特定の症状に焦点を当てた場合、胸腺や副甲状腺の異常はDiGeorge症候群として、その他の症状は円錐動脈幹異常顔貌症候群（CAFS）や軟口蓋帆・心臓・顔症候群（VCFS）として言及されることもあります。特にDiGeorge症候群という名称は広く知られています。

診断

この症候群の確定診断は、遺伝子レベルの検査によって行われます。具体的には、染色体を調べるGバンド法や、より詳細な領域の欠失を検出できるFISH法などの手法を用いて、第22番染色体のq11.2領域に微細な欠失が存在することを確認することによって診断が確定されます。

治療と管理

22q11.2欠失症候群は、多様な症状を伴うため、それぞれの症状に応じた専門的な治療と管理が必要です。

胸腺低形成による免疫不全（DiGeorge症候群関連）: Tリンパ球の数が減少し、機能が低下することで免疫不全を呈しやすくなります。感染を防ぐための予防的な薬剤投与（ST合剤、抗真菌薬など）が行われます。重度の免疫不全の場合は、免疫機能を回復させるために造血幹細胞移植が検討されることもあり、海外では胸腺移植の報告も見られます。
副甲状腺低形成による低カルシウム血症（DiGeorge症候群関連）: 副甲状腺機能が低下し、パラトルモンの分泌が不足すると低カルシウム血症が発生します。この場合、カルシウムやビタミンDの補充が行われます。
心血管系の異常: 合併する心臓や血管の病気（ファロー四徴症など）に対しては、それぞれの疾患に対する標準的な治療方針が採用されます。手術が必要となる場合もあります。
口蓋裂・鼻咽腔閉鎖不全: 口蓋裂や鼻咽腔の閉鎖が不十分だと、授乳や食事に問題が生じることがあります。必要に応じて経管栄養などによる栄養管理を行います。言葉の発達に影響が出る場合は言語聴覚療法が有効です。根本的な治療として、口蓋裂に対する手術が行われることもあります。
知的障害: 軽度から中等度の精神発達遅滞が見られることがあります。まれに統合失調症を発症することもあります。発達段階に応じた療育や教育的なサポート、必要に応じた専門的な医療的ケアが重要となります。

22q11.2欠失症候群の管理には、小児科医、循環器科医、耳鼻咽喉科医、形成外科医、免疫学者、遺伝学者、精神科医、理学療法士、言語聴覚士など、多岐にわたる専門家によるチームアプローチが不可欠です。各症状を適切に評価し、患者さん一人ひとりに合わせた包括的なケアを提供することが、予後の改善につながります。

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