59式戦車

59式戦車：中国戦車開発の礎

59式戦車（59しきせんしゃ）は、中華人民共和国が初めて量産した主力戦車であり、中国の戦車開発の歴史において重要な位置を占めています。ソビエト連邦のT-54A中戦車をベースに開発され、中国人民解放軍の主力として長らく運用されました。その開発から運用、派生型に至るまでを詳しく見ていきましょう。

開発の経緯

1949年の中華人民共和国成立当時、中国人民解放軍が保有していた戦車は旧日本軍や国民政府軍から鹵獲したものが中心で、老朽化が目立っていました。戦車の国産化は急務であり、ソ連の支援のもと、T-34/85やIS-2といった装甲戦闘車両が供与され、装甲部隊の編成が進められました。

1953年、ソ連との間で経済建設支援協定が締結され、戦車生産に必要な工場の建設が始まりました。内モンゴル自治区の包頭市に建設された第617工場を中心に、各地の工場で部品が生産され、最終組み立てが行われる体制が整えられました。1955年にはT-54Aの実物が供給され、1956年にはライセンス生産権が譲渡されました。

当初はソ連からの部品を組み立てるノックダウン生産から始まりましたが、徐々に国産化が進められ、1961年までに砲塔や装甲板、戦車砲などの主要部品が国産化されました。しかし、照準装置などの精密機器や、装甲板に必要なレアメタルは、中ソ関係が悪化する1964年頃までソ連からの輸入に頼らざるを得ませんでした。

車体の特徴

59式戦車の車体は、T-54Aと同様に溶接鋼板、砲塔は鋳造鋼板で製造されています。操縦席上部には2基のペリスコープが設置され、そのうち1基には夜間操縦用の赤外線暗視装置が装備されています。しかし、車長や砲手用の暗視装置は搭載されなかったため、夜間戦闘能力は限定的でした。砲塔の旋回は電気モーターで行われ、最大旋回速度は毎秒10度です。

砲塔上部の装填手用ハッチの手前には、換気用ベンチレーターのドーム型カバーが設けられています。これは、ソ連ではT-55以降廃止されたものの、中国では88式戦車まで引き継がれた特徴の一つです。操縦手座席の直後にある車体底部には脱出口が設けられています。

武装

初期の59式戦車は、T-54のD-10TGをコピーした59式56口径100mmライフル砲を搭載していました。しかし、59-II式以降は、オーストリアから供与されたモデルをベースにライセンス生産されたNATO標準規格のイギリス製L7系105mmライフル砲を採用しました。近年では、さらに強力な120mm滑腔砲を搭載するモデルも登場しています。

副武装として、車長キューポラにはT-54のDShKM 12.7mm重機関銃をコピーした54式12.7mm機関銃、主砲同軸にはSGMT 7.62mm重機関銃をコピーした59式7.62mm機関銃が各1丁装備されています。

運用と実戦経験

59式戦車は、1963年から本格的な生産が始まり、1980年代半ばまでに1万両以上が生産されました。そのうち6,000両が中国人民解放軍陸軍に配備され、中国で開発される戦車の母体となりました。中ソ国境紛争時に捕獲したT-62や独自に入手したT-72の技術も取り入れられ、独自の発展を遂げました。

59式戦車は、第二次印パ戦争、中越戦争、イラン・イラク戦争など、数多くの実戦に参加しました。湾岸戦争では、イラク軍の59式戦車がアメリカ軍のM1エイブラムスに対して一方的な敗北を喫しましたが、その後の近代化改修によって、現在もなお中国人民解放軍で現役として運用されています。

多彩なバリエーション

59式戦車は、数多くの派生型が存在します。指揮戦車型、砲安定装置を換装した型、レーザー照準器や暗視装置を装備した型、105mmライフル砲を搭載した型など、様々な改良が施されたモデルが存在します。また、地雷処理型や回収車といった特殊車両も開発されています。近年では、ERA（爆発反応装甲）を装着したり、120mm/125mm滑腔砲を搭載するなど、近代化改修が進められています。

まとめ

59式戦車は、中国の戦車開発の礎となった戦車であり、長年にわたり中国人民解放軍の主力として活躍しました。数多くの改良を経て、現在もなお現役で使用されており、その豊富な派生型は、中国の戦車技術の発展を物語っています。

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