600隻艦隊構想

600隻艦隊構想：冷戦下のアメリカ海軍戦略

600隻艦隊構想は、冷戦時代にアメリカ海軍が実行した大規模な海軍軍備計画です。1970年代から1980年代にかけて、膨張を続けるソビエト海軍に対する優位性を維持・確保することを目的として推進されました。

構想の背景

第二次世界大戦後、アメリカ海軍は質・量ともに世界一の地位を確立していましたが、1970年代には総数が400隻程度にまで縮小していました。一方、ソビエト海軍はキューバ危機以降、制海権の重要性を認識し、急速な建艦を進めていました。原子力潜水艦などの一部の分野では、量的にアメリカ海軍を上回るまでに成長し、キーロフ級ミサイル巡洋艦やモスクワ級ヘリコプター巡洋艦などの新型艦艇を次々と配備していました。アメリカ国防総省は、ソビエト海軍が全長300m、全幅35m、排水量5万トン、乗員数3300名、速力32-33ノットの航空母艦を建造し、MiG-27などの艦上機を50機近く搭載すると予測し、強い危機感を抱きました。

構想の提唱と艦隊の内容

1981年初頭、ロナルド・レーガン大統領は、戦略核兵器戦力の近代化、アメリカ海軍の通常戦力の再建とソビエトを上回る地位の確立、国際紛争に即応する緊急派遣軍の強化という3つの国防目標を掲げました。これを受けて、ジョン・レーマン海軍長官は「600隻艦隊構想」を提唱しました。当時のアメリカ海軍の戦闘艦は475隻であり、目標達成のためには大幅な増強が必要でした。

1989会計年度、アメリカ海軍は保有艦艇600隻を達成し、600隻艦隊構想は実現しました。艦隊は15個航空機動群、4個水上打撃群などで構成され、原子力空母、水上戦闘艦、潜水艦、揚陸艦艇、補給艦などが含まれていました。

原子力空母の増強

構想では、現役の航空母艦を13隻から15隻に増強することが目標とされました。当時、アメリカ海軍は通常動力空母10隻と原子力空母3隻を保有していましたが、1982年には4隻目の原子力空母「カール・ヴィンソン」が就役し、隻数は14隻に引き上げられました。また、老朽化した空母の艦齢延長計画も実施され、現役空母を1隻ずつドックに入れ、2年半かけて改修することで、実質的な戦力を維持しました。ニミッツ級原子力空母の建造も進められ、「セオドア・ルーズベルト」「エイブラハム・リンカーン」「ジョージ・ワシントン」などが順次就役する見通しとなりました。

戦艦の復活

600隻艦隊構想のもう一つの目玉は、戦艦の復活でした。アイオワ級戦艦「アイオワ」「ニュージャージー」「ミズーリ」「ウィスコンシン」がモスボール状態から現役復帰し、近代化改修を受けました。トマホーク巡航ミサイルやハープーン艦対艦ミサイル、ファランクスCIWSなどが搭載され、対艦ミサイル防御能力も強化されました。

艦隊の終焉

600隻艦隊の構築から2年後の1991年、ソビエト連邦が崩壊し、冷戦は終結しました。大規模正規戦を想定した600隻艦隊構想は、その意義を失い、過去の遺物となりました。国防予算の削減が行われ、維持費や運用費、乗員の多い空母や戦艦は真っ先に予備役・退役の対象となりました。アイオワ級戦艦4隻は湾岸戦争後にすべて退役し、「ミッドウェイ」などの老朽化した空母も順次退役しました。

600隻艦隊構想は、冷戦という時代背景の中で、アメリカ海軍がソビエト海軍に対抗するために推進した壮大な軍備計画でした。冷戦終結後、その役割を終えましたが、アメリカ海軍の歴史において重要な位置を占めています。

もう一度検索