モスクワ級ヘリコプター巡洋艦

モスクワ級ヘリコプター巡洋艦は、ソビエト連邦海軍が運用していた対潜巡洋艦の艦級であり、ヘリコプター巡洋艦としても知られています。ソ連海軍における正式名称は1123型対潜巡洋艦、計画名は「コンドル」でした。

来歴

ソ連海軍は、創設期から航空母艦の取得を検討していましたが、経済状況や第二次世界大戦の影響で実現しませんでした。スターリンの死後、クズネツォフ海軍総司令官は軽空母の設計承認を得ましたが、フルシチョフ第一書記の核戦力優先指示や、戦艦「ノヴォロシースク」の喪失責任により、計画は中止されました。しかし、冷戦の激化に伴い、アメリカ海軍が潜水艦発射弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦を配備すると、ソ連はこれに対抗する必要に迫られました。

ソ連海軍は1958年からKa-15対潜ヘリコプターを配備しており、これを多数搭載した哨戒ヘリコプター母艦によって、潜水艦の脅威に対処する構想が立てられました。1958年、軽巡洋艦を原型としたヘリコプター搭載遠洋対潜艦の技術案が作成されました。このコンセプトは受け入れられ、ヘリコプター搭載遠洋対潜艦の設計・建造に優先権が与えられました。1960年12月には第17設計局のコンセプトが認可され設計要請が出されましたが、海軍からの要求は二転三転し、1961年3月に23番目の改訂案が最終的に認可されました。

設計

同時期、西ヨーロッパ諸国でもヘリコプター巡洋艦の計画が進められており、本級もこれらと同様に、艦の前部に兵装、中央部に艦橋構造物、後部にヘリコプター甲板を配置しました。ヘリコプター甲板面積を確保するために、船体の耐航性や推進性能は妥協され、上部構造物にはアルミニウム-マグネシウム軽合金が用いられました。また、新装備の多さから乗員が増加した一方で居住スペースが不足し、居住性は劣悪でした。1976年には魚雷発射管を撤去して居住区を拡張しましたが、効果は限定的でした。なお、設計には、第17設計局がかつて検討していた長距離対潜艦の資料が流用されました。

船底は二重底構造で、艦内は16個の防水区画に区分され、高い抗堪性を持っています。対艦ミサイルや魚雷の攻撃、核爆発の近接にも耐えうる設計です。また、ステルス性が考慮され、排気冷却装置や防振架台が採用されました。

主機関には蒸気タービン方式が採用され、2つの機械室にそれぞれ2基のボイラーと1基のタービンが搭載されました。燃料搭載量は3,000tです。

装備

本級は、同世代のヘリコプター巡洋艦の中で最も大型で、重装備を誇ります。

C4ISR

戦術情報処理システムとして、「モレ-U」型戦術データ・リンク装置を含むMVU-201「コレニ1123」型戦術情報処理装置が搭載されました。対空捜索用レーダーとしてMR-600「ヴォスホード」、副レーダーとしてMR-310「アンガラーA」が搭載されました。

艦装備ソナーとして、MG-342「オリオン」が搭載されました。これは、チタン製のフェアリング内に収められたもので、運用状況に応じて上下する独特な構造を持っていました。また、艦尾にはMG-325「ヴェガ」可変深度ソナーも搭載されました。

武器システム

艦対空ミサイルとして、M-11「シュトルム」連装発射機が2基搭載されました。対潜兵器としては、RPK-1「ヴィフリ」対潜ミサイル連装発射機とRBU-6000対潜ロケット砲が備えられていました。当初は魚雷発射管も搭載されていましたが、居住性改善のために撤去されました。対空砲としてAK-725 57mm連装速射砲も搭載されました。

航空艤装

後甲板はヘリコプター甲板として使用され、発着スポット3個と予備スポット1個が設けられました。ハンガーはヘリコプター甲板直下と上部構造物内に設けられ、それぞれ12機と2機を収容できました。エレベータは2基設置され、機体移動にはコンベアや牽引車が用いられました。搭載機はKa-25対潜ヘリコプターが想定されました。

当初、シーステート6までヘリコプター運用が可能とされていましたが、実際にはシーステート5が限度でした。しかし、強力な対潜戦能力と新鋭機Ka-25との組み合わせにより、本級は非常に効果的な対潜戦を展開できました。

同型艦

モスクワ

ソ連海軍初のヘリコプター母艦として、試験中に多数の改善点が指摘され、就役までに3年以上の年月を要しました。1967年 12月31日にセヴァストポリで第21対潜旅団に配属されましたが、実際には不具合の改修工事のため、就役は翌年9月までずれ込みました。地中海に派遣され、作戦航海を実施、アメリカ軍潜水艦との接触を記録しました。1972年には、暗礁との衝突事故で修理を受け、ヘリコプター甲板の耐熱鋼板換装とVTOL機運用試験のための特別プラットフォームが設置されました。同年、Yak-36M（Yak-38）による着艦試験が行われました。1975年には艦首の発電機室から出火し、甚大な被害を受けました。その後、地中海での戦力拡充のために第30対潜師団に配属され、各地を親善訪問しましたが、近代化改修工事の遅延により活動が制限され、1993年5月に出港を最後に、1996年に除籍されました。

レニングラード

「モスクワ」での経験を生かし、スムーズに就役することができました。1970年のオケアン演習に参加し、1972年のK-19火災事故での救援活動で重要な役割を果たしました。1974年にはエジプト軍からの要請で、機雷除去作業にも従事しました。1976年には「モスクワ」と共に第30対潜師団に配属され、地中海での任務にあたりました。1984年には大西洋での作戦行動にも参加し、キューバに寄港しました。1991年に除籍されました。

キエフ

艦対空ミサイルと航続性能を強化した発展型として計画されていましたが、ゴルシコフ総司令官がYak-36の性能に感銘を受け、次期対潜巡洋艦にはこれを搭載するよう指示したため、1123.3型の建造は取りやめられ、全通甲板を持つ1143型（キエフ級）に発展しました。

参考文献

外部リンク

モスクワ級航空重巡洋艦
Global Security

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