9M14 (ミサイル)

9M14 マリュートカ：ソ連が生んだ第一世代対戦車ミサイル

9M14 マリュートカは、ソ連で開発された対戦車ミサイルであり、NATOコードネームではAT-3 サガーとして知られています。このミサイルは、その小型さからロシア語で「赤ちゃん」を意味する「マリュートカ」という愛称で呼ばれていました。

概要

マリョートカは第一世代の対戦車ミサイルに分類され、射手が照準器を覗きながらジョイスティックで有線誘導を行う方式を採用しています。基本型はHEAT弾頭を搭載し、400mmの均質圧延鋼装甲を貫通する能力を持っていました。歩兵部隊での運用を想定して開発されましたが、BMP-1歩兵戦闘車やBRDM-2装甲偵察車などの車両にも搭載可能であり、Mi-2、Mi-8、Mi-24Dなどのヘリコプターにも搭載されました。

歩兵が携行する際には、9P111運搬ケースが使用されます。このケースはグラスファイバー製で、ミサイルは翼を折り畳み、弾頭を外した状態で格納されます。発射準備時には、手作業でミサイルをケースから取り出し、翼を展開して弾頭を取り付け、ミサイル後端部に誘導信号伝達用の導線を接続します。ケースはミサイルランチャーとしても使用できますが、発射直後のミサイルの衝突を防ぐため、やや仰角をつけて打ち出されます。そのため、発射地点から500-800m以内では誘導ができません。

ミサイルの誘導は、9S415誘導装置のジョイスティックを操作して行います。誘導装置はミサイルランチャーから最大15m離れた場所に設置でき、最大射程は3,000mです。1,000m以内の目標は肉眼照準でも可能ですが、それ以上の距離では9S415誘導装置に取り付けられた8倍率の潜望鏡型照準鏡を使用する必要がありました。

9K11 システムの課題

9K11 システムには、いくつかの欠点がありました。特に近距離におけるミサイルの射程範囲の狭さが問題でした。また、ランチャーと照準器が分離されているため、敵が想定外の方向から現れた場合、照準器だけでなくランチャーも別の人間が方向を合わせる必要がありました。さらに、命中率の低さやミサイルの低速も課題であり、目標の戦車に回避行動を取る時間を与えてしまうことがありました。

これらの問題点を改善するため、改良型の9M14P型からは誘導方式がSACLOSに変更され、より強力なロケットモーターが搭載されました。

運用

9K11 システムは、BTRを装備した自動車化狙撃兵大隊の対戦車小隊に配備されました。また、BMP-1やBMD-1には標準装備されていました。初めて実戦で使用されたのはベトナム戦争であり、第四次中東戦争ではエジプト軍がイスラエル軍の戦車部隊に対して大きな戦果を上げました。

第四次中東戦争の戦訓から、イスラエル軍は歩兵や砲兵との連携を強化すると共に、メルカバ戦車の設計に防御力重視の思想を取り入れ、爆発反応装甲やケージ装甲などのHEAT弾対策を推進しました。

各国での生産と発展

9M14 マリュートカは、ソ連以外にも世界各国で生産されました。中国、スロベニア、イラン、北朝鮮、台湾などがコピー生産や独自の改良型を開発しました。ロシア連邦でも改良型が開発されています。ワルシャワ条約機構の国々やアラブ諸国など、世界各地で使用されたため、東側対戦車ミサイルの中でも最も知られたミサイルとなりました。

現在では旧式化しているものの、第二次レバノン侵攻でもヒズボラが使用するなど、陣地攻撃においては依然として有効であると考えられています。

バリエーション

9M14 マリュートカには、以下のようなバリエーションが存在します。

9M14 マリュートカ：初期型
9M14M マリュートカ-M：ロケットモーターを改良し、飛翔速度を向上
9M14P マリュートカ-P：誘導方式を有線SACLOSに変更
9M14-2 マリュートカ-2：ロシア連邦製の改良型

その他、スロベニア、イラン、北朝鮮、中国、台湾でも独自の改良型が生産されています。

9M14 マリュートカは、その登場によって対戦車戦の様相を一変させた重要な兵器であり、その影響は現代の対戦車ミサイルにも受け継がれています。

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