A-50 (航空機)

A-50 早期警戒管制機

A-50は、ソ連およびその後継であるロシア連邦が開発・配備した早期警戒管制機（AWACS）です。北大西洋条約機構（NATO）からは「メインステイ」（Mainstay）というコードネームが与えられています。

概要

貨物機として知られるイリューシン設計局のIl-76を基本として、ベリエフ設計局が総合的なシステム開発を担いました。A-50とIl-76MDとの外見上の主な相違点には、主翼フェアリング前方の膨らみ、垂直尾翼付け根に強化された補助動力装置（APU）の排熱用エアインテークの追加、機首や尾部の窓の閉鎖、そして空中給油プローブの装備が挙げられます。

「A-50」という名称は、ベリエフ設計局での試作段階における仮称でしたが、正式に採用されて量産化された後もこの名称が引き継がれ、改良型には「A-50M」といった接尾記号が付与されています。その特徴的な円盤状の大型レーダードーム（レドーム）から、「きのこ」という俗称でも呼ばれています。

開発経緯

ソ連の国土防空軍は、1962年に初飛行したツポレフ設計局のTu-126を最初の本格的な早期警戒管制機として運用していました。このTu-126はTu-114旅客機をベースに開発され、「リアーナ」レーダー複合体を搭載していましたが、その能力は十分とは言えませんでした。1960年代末には後継機としてTu-156が計画されましたが、機体設計の大幅な変更が必要とされたことなどから実現しませんでした。

Tu-156計画の頓挫を受け、再び既存機の設計を最大限に活用する方針が取られました。こうしてIl-76MDを母機とするA-50の開発がベリエフ設計局で進められました。レドームを持たない状態での最初の飛行は1978年12月19日に行われ、完全な装備での飛行は1979年8月16日に成功しました。その後、改良型の開発も進められ、特にA-50Uではアナログ機器のデジタル化、搭載燃料の増加、乗組員の居住性向上が図られました。最初のA-50U試作機は2009年秋に初飛行しています。

能力

A-50は、「シュメーリ」レーダー複合体を搭載しています。このシステムは最大300の空中目標を探知・追尾する能力を持つとされ、同時に12機の戦闘機に対する指令誘導や、30機への機上誘導を行うことが可能と言われています。Tu-126にはなかったグラウンドクラッター（地上反射）除去能力や移動目標探知能力を備えており、地上目標や低空飛行する航空機の識別能力が向上しています。具体的な最高性能は軍事機密のため不明ですが、輸出用ダウングレード型であるA-50Eでは、爆撃機を最大650km、RCS 1m²の航空機を最大215km、弾道ミサイルを最大800kmの距離で探知できるといった値が公表されています。機内のカラーCRTディスプレイに様々な情報が表示されます。また、S-400地対空ミサイルシステムとの連携による中間誘導能力も推測されています。

運用

A-50は1984年からソ連空軍に配備され、Tu-126に代わる主要な早期警戒管制機となりました。ソ連崩壊後はロシア空軍が運用しており、他の旧ソ連諸国では運用されていません。ロシア空軍では貴重な戦力として位置づけられ、A-50Uへの近代化改修が進められるとともに、後継機であるA-100の開発も進行中です。

国外ではインド空軍がA-50EIを運用しています。これはウズベキスタン空軍の余剰Il-76を基に、ロシアで機体改修、イスラエルでレーダー搭載が行われた機体です。

A-50は近年の紛争にも投入されており、シリア内戦への展開が報じられたほか、2022年から続くウクライナ侵攻でも使用されました。しかし、ウクライナ軍は2024年に入り、このA-50を複数機撃墜したと発表しており、ロシア空軍にとって痛手となっています。2019年には竹島上空での領空侵犯疑惑に関連して出動したことが報じられています。

派生型

A-50にはいくつかの派生型が存在します。

A-50: 初期量産型。NATOコードはメインステイA。
A-50M: 機器のデジタル化などを図った改良型（計画中止）。また、別の近代化された改良型にもこの名称が使われています。NATOコードはメインステイB。
A-50U: シュメーリMレーダー搭載、アビオニクス換装、居住性改善などが施された最新改修型。
A-50E: 輸出用ダウングレード型。
A-50I / KJ-2000: 中国向けにイスラエル製レーダーを搭載する計画（A-50I）は米国の圧力で中止となりましたが、機体を基に中国が独自開発したのがKJ-2000です。
A-50EI: インド向け輸出型。エンジン換装などが施されています。

仕様（A-50）

乗員：16名（操縦士 5名、ミッションクルー 11名）
全長：49.59 m
全幅：50.50 m
全高：14.76 m
最大離陸重量：190,000 kg
エンジン：ソロヴィヨーフ D-30KU ターボファン × 4基
最高速度：900 km/h
航続距離：6,400 km
* 実用上昇限度：12,000 m

これらの能力と仕様により、A-50は現在もなお、ロシアおよびインドの航空戦力において警戒・管制の中核を担う機体となっています。

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