ABDA司令部

ABDA司令部：東南アジア防衛の悲劇

第二次世界大戦の太平洋戦争初期、東南アジアにおける対日作戦を指揮するために設立されたのが、ABDA司令部（American-British-Dutch-Australian Command、またはABDACOM）です。アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアの4ヶ国からなる多国籍軍司令部は、日本軍の南方進出を阻止するための重要な役割を担うはずでしたが、様々な問題を抱え、わずか数ヶ月で崩壊しました。本稿では、ABDA司令部の設立から解散までの経緯、その作戦、そして失敗の原因を詳細に分析します。

設立までの経緯

太平洋戦争開戦直前、極東の情勢は緊迫していました。日中戦争の勃発、フランスの敗北とインドシナへの日本軍進駐は、イギリス、オランダ、そしてアメリカ合衆国に危機感を募らせました。1941年1月、アメリカとイギリスは米英参謀会談（ABC-1）を開催し、日本への対応策を協議。その後、シンガポールにおいて、日本軍の軍事行動と対応策を検討する会議が開催され、「マレー防壁」と呼ばれる防衛線が構想されました。

しかし、各国の思惑や戦略は必ずしも一致していませんでした。アメリカはフィリピン防衛に注力し、イギリスは自国の東洋艦隊をシンガポール防衛の要として重視していました。オランダもまた、自国の植民地であるオランダ領東インドの防衛を優先しました。この足並みの乱れが、後にABDA司令部の失敗に繋がります。

1941年12月、日本軍は南方作戦を開始。マレー作戦と蘭印作戦によって、シンガポール、オランダ領東インドは日本軍の攻撃を受けました。マレー沖海戦でのイギリス東洋艦隊の壊滅は、連合国に大きな打撃を与え、ABDA司令部の設立を急がせる要因となります。

12月22日に始まったアルカディア会談において、アメリカとイギリスは日本への対応として連合軍統一司令部の設置で合意。アメリカ陸軍参謀長のマーシャルの提案により、イギリスのウェーヴェル大将がABDA司令部の総司令官に任命されました。しかし、この時点ですでに、アジア方面における連合国の戦力不足は明白でした。

ABDA司令部の作戦

ABDA司令部は、マレー半島からジャワ島に連なる防衛線「マレー防壁」の維持を基本戦略としました。しかし、日本軍は圧倒的な制空権と制海権を掌握しており、ABDA司令部の作戦は最初から苦戦を強いられました。

ウェーヴェル総司令官は、シンガポールを訪問し、防衛施設の無為無策さに愕然とします。シンガポール陥落後も、ABDA司令部はジャワ島防衛に尽力しますが、日本軍の猛攻の前に、次々と敗北を重ねました。バリクパパン沖海戦、ジャワ沖海戦、スラバヤ沖海戦など、ABDA艦隊は壊滅的な損害を受けます。

崩壊

劣勢を挽回できず、1942年2月21日、ウェーヴェル総司令官はABDA司令部の廃止をチャーチル首相に進言。連合参謀本部もこれを受け入れ、2月25日、ABDA司令部は正式に解散されました。

ABDA司令部の解散後、ジャワ島攻防戦でオランダ軍は降伏。オランダ領東インドは日本軍の占領下に入ります。ABDA司令部の失敗は、連合国の戦略の不統一、戦力不足、そして情報収集や連携の不足などが原因として挙げられます。

教訓

ABDA司令部の失敗は、太平洋戦争における連合国の苦戦の象徴となりました。この経験から、連合国は今後の作戦遂行における戦略の統一、情報共有、そして連携の重要性を痛感しました。ABDA司令部の悲劇は、国際協力の難しさと、戦争における準備不足の危険性を示す、歴史的な教訓となっています。

参考文献

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