ADPリボース化

ADPリボース化とは

ADPリボース化は、タンパク質の翻訳後修飾の一種であり、アデノシン二リン酸（ADP）リボース分子をタンパク質に付加する反応です。この修飾は、単一のADPリボース分子が付加される場合と、複数のADPリボース分子が鎖状に連なったポリADPリボースが付加される場合があります。

ADPリボース化は、細胞内の様々なプロセスに関与しており、細胞のシグナル伝達、DNA修復、アポトーシス（細胞死）など、生命維持に不可欠な多くの機能に影響を与えています。

ADPリボシル転移酵素

ADPリボース化反応は、ADPリボシルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素によって触媒されます。この酵素は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド（NAD+）からADPリボースを切り出し、タンパク質中の特定のアミノ酸残基（アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸など）に転移させます。

ヒトの場合、NAD+からアルギニン残基にADPリボースを転移させる酵素が1種類同定されており、この酵素はヒストンなどのタンパク質を修飾することが知られています。この反応は可逆的であり、ADPリボシルアルギニンヒドロラーゼによってADPリボースは除去されます。

ポリADPリボース化

ADPリボースは、単独でタンパク質に付加されるだけでなく、複数のADPリボースが連なったポリADPリボースとしてタンパク質に付加されることもあります。この反応は、ポリADPリボースポリメラーゼという酵素によって触媒され、原核生物と酵母を除くほとんど全ての真核生物で見られます。

ポリADPリボース化は、特にDNA修復やテロメアの維持において重要な役割を果たしています。DNA損傷が起こると、ポリADPリボースポリメラーゼが活性化され、損傷部位周辺のタンパク質をポリADPリボース化することで、DNA修復に関わるタンパク質の動員や活性化を促進します。

細菌毒素とADPリボース化

ADPリボース化は、コレラや百日咳などの細菌が毒性を発揮するメカニズムにも関与しています。これらの細菌が産生する毒素タンパク質は、ADPリボシルトランスフェラーゼ活性を持ち、ヒト細胞内の特定のタンパク質をADPリボース化することで、細胞の機能を阻害します。

例えば、コレラ毒素は、ヒトのGタンパク質のαサブユニット（Gsα）のアルギニン残基をADPリボース化します。この修飾により、Gsαが異常に活性化され、細胞内の情報伝達経路が撹乱されます。その結果、腸管からの過剰な水分分泌が引き起こされ、重篤な下痢を引き起こします。

また、百日咳毒素も、異なる種類のGタンパク質のαサブユニット（Giα）のシステイン残基をADPリボース化します。この修飾もまた、細胞内の情報伝達経路を阻害し、百日咳特有の症状を引き起こします。

まとめ

ADPリボース化は、細胞の生命活動に不可欠なタンパク質修飾であり、その異常は様々な疾患の原因となり得ます。この反応のメカニズムを詳細に理解することは、新たな治療法の開発や創薬につながると期待されています。

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