AJYMフィルム

AJYMフィルム：ヌーヴェルヴァーグの揺籃

AJYMフィルムは、フランスを代表する映画監督クロード・シャブロルが1956年に設立した映画製作会社です。その設立には、シャブロル自身の妻アニエス、そして息子のジャン＝イヴとマチューという家族の絆が深く関わっています。社名であるAJYMは、彼らの名前の頭文字から取られています。

シャブロルは最初の結婚後、妻アニエスの祖母の遺産を相続。この巨額な資金を基に、AJYMフィルムを設立し、ヌーヴェルヴァーグムーブメントの中枢を担うことになります。

ヌーヴェルヴァーグの夜明け：記念すべき第一作

AJYMフィルムの第一作は、ジャック・リヴェット監督の短編映画『王手飛車取り』です。この作品には、ヌーヴェルヴァーグを代表する多くの才能が集結していました。シャブロル自身も脚本とプロデュースに携わり、ジャン＝マリー・ストローブが助監督を務めました。さらに、シャブロル、リヴェット、ジャン＝リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォーといった巨匠たちが自らも出演しています。ヴィルジニー・ヴィトリ、ジャック・ドニオル＝ヴァルクローズ、そしてジャン＝クロード・ブリアリといった名優たちの演技も光ります。

当時、ヌーヴェルヴァーグの作家たちは主に16ミリフィルムで短編映画を制作していましたが、『王手飛車取り』は35ミリフィルムで撮影された、いわばプロフェッショナルな作品として大きな意義を持ちました。プロデューサーのピエール・ブロンベルジェの協力を得て、編集やダビングといったポストプロダクション費用も確保されました。

シャブロル監督デビューと大ヒット作

『王手飛車取り』に続き、シャブロルは自ら監督を務める2本の劇映画を製作することを決意します。予算を抑えるために、先に低予算で製作可能な作品から着手しました。それが彼の監督デビュー作である『美しきセルジュ』です。1957年末から1958年にかけて撮影された本作は、予算を多少オーバーしたものの、カンヌ国際映画祭で上映され、プリセールスによって収益を得ました。

その資金を元に製作されたのが2作目の『いとこ同志』です。『美しきセルジュ』は13週間のロングランヒットを記録し、続く『いとこ同志』はさらに大ヒット。14週間のロングランで『美しきセルジュ』の4倍の興行収入を上げ、第9回ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞しました。主演のブリアリとブランは、この作品でスターダムにのし上がります。

ヌーヴェルヴァーグの才能を育む

『いとこ同志』の大ヒットによる資金は、エリック・ロメールの処女長編『獅子座』の製作費に充てられました。興味深いことに、シャブロルの遺産相続というエピソードが、この作品のストーリーに反映されていると言われています。

1960年には、フランソワ・トリュフォーの会社レ・フィルム・デュ・キャロッスと共同で、リヴェット監督の処女長編『パリはわれらのもの』を製作しました。この作品には、シャブロル、リヴェット、ゴダール、そしてジャック・ドゥミまでもが出演しており、トリュフォーは自身の作品『突然炎のごとく』の中で、この映画のタイトルをジャンヌ・モローに叫ばせています。この作品は、当時のヌーヴェルヴァーグムーブメントの熱気をそのまま反映した作品と言えるでしょう。

その後もAJYMフィルムは、フィリップ・ド・ブロカの監督デビュー作を支援するなど、ヌーヴェルヴァーグの才能発掘と育成に貢献しました。

AJYMフィルムのフィルモグラフィー

『王手飛車取り』(監督：ジャック・リヴェット)
『美しきセルジュ』(監督：クロード・シャブロル) - ジャン・ヴィゴ賞受賞
『いとこ同志』(監督：クロード・シャブロル)
『獅子座』(監督：エリック・ロメール)
『パリはわれらのもの』(監督：ジャック・リヴェット)
『Le Farceur』(監督：フィリップ・ド・ブロカ)
* 『Les Jeux de l'amour』(監督：フィリップ・ド・ブロカ)

AJYMフィルムは、短期間ながら、ヌーヴェルヴァーグを代表する数々の名作を生み出した、重要な映画製作会社でした。その功績は、映画史に永遠に刻まれています。

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