AKIRA (1988年の映画)

映画『AKIRA』：アニメーション史に残る金字塔

『AKIRA』（アキラ）は、大友克洋による同名の漫画を原作とした1988年7月16日公開の長編アニメーション映画です。アニメーション制作は東京ムービー新社が担当し、監督は原作者である大友自身が務めました。大友監督にとって初の長編映画であり、当時の日本アニメとしては異例の巨額な制作費が投じられました。日本中から一線級のスタッフが集められ、その結果、アニメーション史に残る傑作が誕生しました。

制作の背景と特徴

映画制作当時、原作漫画はまだ雑誌連載中で、コミックスも4巻までしか刊行されていませんでした。そのため、映画版は原作とは異なるストーリー展開となっています。大友監督が自ら描き下ろした絵コンテをベースに、原作コミックス2巻までの話を展開した後、映画独自のラストへとまとめられています。

劇中に登場するメカデザインは、ほとんどが大友監督によるもので、原作漫画からのものが多く見られます。バイクのデザインの一部は森本晃司、自動車は田中清美が担当しました。また、アキラが冷凍されていた極低温ポッドの複雑な内部パーツは、渡部隆が手掛けています。

本作の象徴的なシーンとして、冒頭のジョーカーとの対決で、金田がバイクを横滑りさせて急停止させる場面が挙げられます。このシーンは多くの作品でオマージュされており、その斬新な演出は後のアニメ作品に大きな影響を与えました。例えば、走るバイクのテールライトが残像を残す表現や、複雑な脳波の波形を3DCGアニメーションとセル画の背景合成で再現するなど、当時としては画期的な映像表現が数多く採用されています。

また、一般的な日本のアニメではアフレコ方式が用いられますが、本作では声優の演技を先に収録し、その演技に合わせて作画を行うプレスコ方式が採用されています。これにより、キャラクターの表情や動きがより自然になり、物語への没入感を高めています。

ストーリー

1988年7月16日、関東地方で「新型爆弾」が炸裂し、第三次世界大戦が勃発します。それから31年後の2019年、新首都「ネオ東京」では、反政府ゲリラとアーミーとの衝突が絶えません。

不良少年の金田は、山形・甲斐・鉄雄といった仲間たちと、バイクでの暴走と対立チームとの抗争に明け暮れていました。ある日、鉄雄が謎の能力を持つ少年タカシとの事故をきっかけにアーミーに捕えられます。金田は取り調べ中に反政府ゲリラの少女ケイと知り合います。

事故をきっかけに能力に目覚めた鉄雄は、見知らぬ少年の幻覚に悩まされ、怒りに任せて力を振るうようになります。アーミーの大佐は、鉄雄を実験体として管理下に置こうとします。金田はケイらゲリラ組織のメンバーと共に、鉄雄を助け出そうとアーミーのラボに潜入しますが、力を得た鉄雄はそれを拒否し、アキラの存在を求めてラボを飛び出します。

鉄雄に山形が殺されたことで、金田は鉄雄との対決を決意します。大佐は事態を収拾しようと奔走しますが、権力を剥奪されそうになり、クーデターを決行。ネオ東京に戒厳令が敷かれ、鉄雄を止めるためクーデター軍が配備されます。鉄雄は旧市街にあるオリンピック会場の地下施設へと向かい、アキラの眠る冷凍カプセルの封印を解きます。しかし、そこにあったのはバラバラに分解され冷凍保存された人体の標本でした。

金田が鉄雄と対決する中、大佐が「SOL」によるレーザー照射を実行しますが、鉄雄は右腕を失いながらもSOLを破壊します。金田はケイや甲斐と合流し、鉄雄との最終決戦に備えます。制御不能となった鉄雄は、肉と機械の塊のような怪物へと変貌を遂げます。その暴走する鉄雄を、アキラの標本から現れた光の球体が飲み込み始めます。金田は鉄雄を救うため光の中へ飛び込み、ナンバーズらも金田を追います。

光の中で金田は鉄雄やナンバーズの記憶を目撃し、人々の間にアキラの力が目覚め始めていることを知ります。鉄雄はナンバーズとアキラによって新たな宇宙へと運ばれ、金田はケイの呼び声で元の世界へ引き戻されます。旧市街を飲み込んだ光の球体は急速に収縮し、ネオ東京は壊滅状態になります。瓦礫の中で生き残った金田は、鉄雄の名を呟き、ケイや甲斐と共に新たな未来へと走り出すのでした。

物語の終末、暗闇の中に「僕は…鉄雄…」という声が響くと、そこに光が生まれ、銀河が次々とあふれ出すという、希望を暗示するような演出で物語は幕を閉じます。

制作スタッフと技術

本作は総製作費10億円、1300人のスタッフ、70mmプリント、15万枚のセル画、327色の色彩設定という、当時の日本アニメとしては最高峰の規模で制作されました。大友監督の緻密なデッサンをアニメで再現するため、作画監督のなかむらたかし、作画監督補の森本晃司、原画の金田伊功、福島敦子、井上俊之、沖浦啓之、木上益治など、後の日本アニメを支えることになる一流のスタッフが集結しました。

作画においては、一般的な3コマ打ちではなく、よりリアルな動きを追求するために2コマ打ちが基本とされています。また、キャラクターの口の動きもAからGまでの7種類に描き分けられ、セリフとのリップシンクも精密に作られています。さらに、画面上の全てのキャラクターを動かすことで、リアリティを追求しました。レイアウトも広角レンズや望遠レンズを意識した描き分けがされており、まるでカメラで撮影されたかのような映像を作り出しています。

音楽は芸能山城組が担当し、ガムランやジェゴグ、ケチャを使用した独特の楽曲が、作品の世界観をより一層深めています。

公開と評価

日本国内では1988年7月16日に公開されましたが、制作費を回収するには至りませんでした。しかし、海外では1989年12月にアメリカで公開され、一部のファンが上映会を行うことで口コミが広がり、人気に火が付きました。公式ビデオソフトも10万本を超えるヒットとなり、ジャパニメーションの金字塔としての地位を確立しました。

本作は、日本アニメの世界的ブームの火付け役となり、海外での評価も非常に高いです。その「リアルな頭身で描かれるキャラクター」「退廃的な未来都市」「SF的な設定と壮大なスケール」「バイオレンスなアクション」は、海外のアニメファンに強い衝撃を与え、後のアニメ作品に多大な影響を与えました。英国の映画サイトが選ぶ「世界のアニメ映画ランキング」で第5位、米ハリウッド・リポーター選出の「大人向けアニメ映画ベスト10」で第4位、米サイト選出の「ディストピア映画20傑」で第3位に選ばれるなど、海外ではSF映画の古典として認識されています。

監督のコメントと関連商品

大友監督は、最初のラッシュを見た時に「これは失敗作だと思った」と語っています。時間や予算の制約からカットせざるを得なかった部分や、海外に外注した原画の出来に不満があったため、前半と後半で画質に差が出てしまったことを悔やんでいます。

一方、映画監督の押井守は、「緻密でよく出来ているが、何度も見たい感じの映画じゃない」と否定的なコメントを寄せています。

関連商品としては、映像ソフトや音楽ソフト、アニメコミックスなどがあります。映像ソフトは、公開後に修正を加えられたものや、DVD、Blu-ray、Ultra HD Blu-rayなど、様々な形式でリリースされています。特に、Ultra HD Blu-ray版は、4K画質でリマスターされ、音響も5.1chでリミックスされており、より高品質な映像体験を楽しむことができます。

新アニメ化プロジェクト

2019年7月には、サンライズによる新たなアニメ化企画が発表されました。原作漫画の1〜6巻に準拠したストーリーが展開される予定ですが、詳細はまだ発表されていません。今後の展開に期待が高まります。

まとめ

『AKIRA』は、その革新的な映像表現、緻密な作画、そして独特な世界観で、アニメーション史に大きな足跡を残した作品です。公開から30年以上経った今でも、世界中のファンを魅了し続けており、その影響力は計り知れません。今後の新アニメ化プロジェクトにも注目が集まります。

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