AMステレオ放送

AMステレオ放送とは

AMステレオ放送は、AMラジオ放送をステレオで聴けるようにする技術です。ステレオとは、左右の音の情報を別々に記録・再生することで、音に立体感や臨場感を与える技術です。AMラジオ放送は通常、モノラル放送ですが、この技術を使うことで、より高品質な音声体験が可能になります。

歴史

AMステレオ放送の研究自体は、オーディオのステレオ化の初期から存在していました。しかし、1波で実用的なステレオ放送を実現する機材が一般的に利用可能になったのは、1980年代以降のことです。アメリカでは、1950年代から実験放送が行われましたが、1980年代にモトローラ方式が標準化されるまで、様々な方式が試されました。

日本では、1991年にモトローラ方式（C-QUAM方式）が標準に採用され、1992年3月15日にTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、毎日放送、朝日放送の民放5局でAMステレオ放送が開始されました。当初は、「AMラジオの最初で最後の進化」や「AMラジオのFM化」とも言われ、プロ野球中継や音楽番組を中心に注目を集めました。しかし、受信機の普及が進まず、2000年代後半には多くの放送局がAMステレオ放送を終了しました。

日本での展開

開始当初

1992年にAMステレオ放送が開始された当初は、大きな盛り上がりを見せました。プロ野球中継では臨場感が増し、音楽番組ではステレオならではの豊かな音響が楽しめました。しかし、AMステレオ受信機は高価で、普及が進みませんでした。また、NHKがAMステレオ放送の導入を見送ったことも、普及を妨げる要因となりました。AMステレオ放送に対応した放送局の設備は、送信機、ステレオエキサイタ、AMステレオモニターなどで構成され、モノラルとステレオを切り替えることができる設備もありました。

衰退

2000年代に入ると、AMステレオ放送は衰退の一途を辿ります。モトローラ社がAMステレオ放送に必要な送信機などの生産を終了したことや、放送事業者の経営合理化、受信機の高価格などが原因で、多くの放送局がモノラル放送に戻しました。

2007年4月1日に九州朝日放送がAMステレオ放送を終了したのを皮切りに、熊本放送、毎日放送、北海道放送、朝日放送、STVラジオ、RKB毎日放送、TBSラジオ、中国放送、山陽放送、文化放送、東海ラジオ、CBCラジオ、ニッポン放送が相次いで終了しました。

2024年4月現在、AMステレオ放送を実施しているのは、ラジオ大阪と和歌山放送の2局のみとなっています。

受信機の状況

AMステレオ対応の受信機は、1991年にアイワが初の対応機を発売し、ソニーなどが続きました。しかし、数年後にはアイワ以外のメーカーからの新製品はほとんどなくなり、アイワも2002年にソニーに吸収合併された後は、対応機種は発売されなくなりました。2013年には、既存の対応機種もすべて生産終了となり、AMステレオ対応の受信機は市場から姿を消しました。

普及しなかった理由

AMステレオ放送が普及しなかった主な理由は以下の通りです。

NHKがAMステレオ放送の導入を見送った。
AMステレオ放送に対応するための設備やメンテナンスに多額の費用がかかる。
AMステレオ受信機が高価で、普及が進まなかった。
AMステレオ放送は、モノラル放送に比べて受信エリアが狭まる。
夜間には、近隣諸国の電波との混信が発生しやすい。

現在の状況

AMステレオ放送は衰退しましたが、現在でも以下の方法でAM放送をステレオで聴くことができます。

radiko（インターネットストリーミングによるサイマル配信）：2010年からAMラジオの番組がステレオで配信されています。
FM補完中継局（ワイドFM）によるAMとのサイマル放送：ワイドFMでAM放送をステレオで聴くことができます。
ワンセグ2サービスによるAMのサイマル放送

技術的な詳細

AMステレオ放送には、いくつかの方式がありましたが、日本ではモトローラ方式（C-QUAM方式）が採用されました。この方式は、振幅変調を利用してステレオ信号を送信します。具体的には、左右の音の和信号を通常のAM波で送信し、差信号を直交変調して送信します。

海外の状況

アメリカでは、1980年代にモトローラ方式が事実上の標準となり、多くのAM局がステレオ放送を行っていました。しかし、近年はデジタルラジオやインターネットラジオの普及により、AMラジオ自体が衰退しており、AMステレオ放送も減少傾向にあります。オーストラリアなど他の国でも、モトローラ方式が採用され、AMステレオ放送が行われていました。

今後の展望

AMステレオ放送は、過去の技術になりつつありますが、その歴史はオーディオ技術の発展において重要な役割を果たしました。現在では、radikoやワイドFMなどの新しい技術によって、高品質なラジオ放送が楽しめるようになっています。これらの技術は、AMステレオ放送の経験を踏まえて発展したものです。

沿革

1926年11月：アメリカ電信電話会社（AT&T）のP.K.ポッターが、直交変調方式の特許を取得。
1958年-1959年頃：アメリカでAMステレオの実験放送が行われる。
1962年7月21日：日本のTBSラジオがAM-FM方式によるステレオ実験放送を実施。
1970年5月：メキシコXETRA局がカーン方式で実験放送を実施。
1975年9月：全米AMステレオ委員会（NAMSRC）が設置される。
1978年：アメリカFCCが、AMステレオの標準方式として5方式を選定。
1982年：アメリカFCCが、AMステレオの5方式全てを認可。
1991年4月：日本の郵政省が、AMステレオの標準方式をモトローラ方式に決定。
1992年3月15日：日本の民放5局でAMステレオ放送が開始。
2007年4月1日：九州朝日放送が、AMステレオ放送を終了。

参考資料

AMすてれお - 規格、IC、方式などを説明。
AM Stereo Stations - 世界各国にあるAMステレオ放送実施局の一覧。

もう一度検索