AMD Phenom

AMD Phenom（フェノム）とは

Phenom（フェノム）は、AMDが開発したマイクロプロセッサのブランド名です。2007年11月19日に発表され、AMD K10マイクロアーキテクチャを採用したデスクトップPC向けプロセッサとして市場に登場しました。名前の由来は「驚異的な」や「目を見張る」という意味を持つ「Phenomenal」から来ています。稀に「ペノム」と呼ばれることがありますが、正式な発音は「フェノム」です。2009年1月には、後継となるPhenom IIが発売されました。

登場までの背景

当時、IntelのCore 2 Quadがクアッドコア市場を席巻しており、AMDも早急なクアッドコアCPUの投入が求められていました。IntelのCore 2 Quad（Kentsfield）がデュアルコアダイを2つ組み合わせた「なんちゃってクアッドコア」と揶揄されていたのに対し、Phenomは4つのコアを1つのダイに統合した「真のクアッドコア」「ネイティブクアッドコア」であることを強調し、「Are you "ネイティブ"?」というキャッチコピーで対抗姿勢を鮮明にしました。しかし、発売が遅れたため、Intelからは「Phenomは張り子のクアッド」と揶揄されることもありました。

当初は、クアッドコア製品が「Phenom X4」、デュアルコア製品が「Phenom X2」と名付けられていましたが、製品出荷直前の2007年9月には、トリプルコア製品の追加が発表されました。これにより、クアッドコア製品は「Phenom 9000」、トリプルコア製品は「Phenom 8000」となり、デュアルコア製品は開発が中止され、代わりに「Athlon X2 7x50」（Kuma）が発表されました。この世界初となるx86トリプルコアCPUは、Phenom 9000シリーズのコアを1つ無効化したもので、歩留まりの向上とコスト削減、消費電力の低減が期待されました。Phenom IIの方が有名ではあるものの、一部では、無効化されたコアを復活させることが出来ると話題にもなりました。

発売後の評価と課題

Phenomは、後発ながらもCore 2 Quadの対抗馬として注目を集め、発売後には多くのベンチマークテストが行われました。しかし、その結果はCore 2 Quadを上回るものではなく、多くのメディアで苦戦を強いられる結果となりました。この原因として、当時のアプリケーションやゲームが完全なマルチスレッド処理に対応していなかったこと、Phenomが得意とする処理がプログラマーにとって避けるべき処理であったこと、絶対的なクロック数の低さ、消費電力の高さなどが挙げられます。そのため、新製品でありながら高値をつけることができず、さらに後述するTLBのエラッタ問題が発覚したことで、価格が下落する事態となりました。しかし、このエラッタが解消された2008年3月からは、Phenom 9000がPhenom X4 9000に、Phenom 8000がPhenom X3 8000に改称され、改めて市場に投入されました。

TLBのエラッタ問題

Phenomの初期モデル（B2リビジョン）では、L2キャッシュの不具合により、特定の条件下でL3キャッシュの内容が破壊されるというエラッタが発覚しました。この問題は、L2/L3キャッシュとTranslation Lookaside Buffer (TLB)に関わるもので、最悪の場合、OSのフリーズやデータの破損を引き起こす可能性があります。しかし、通常の使用環境下でこのエラッタが問題を引き起こす確率は低いとされています。

このエラッタを回避するためには、BIOSやOSでモデル固有レジスタ（MSR）を設定し、TLBのキャッシュを無効化する必要がありました。ただし、TLBのキャッシュを無効化すると、アプリケーションのパフォーマンスが5%から10%低下するという問題も抱えていました。このエラッタは、同じK10マイクロアーキテクチャを採用するOpteronでも発生し、Barcelonaの一時販売停止や出荷延期に繋がり、新製品の立ち上がりを遅らせる要因となりました。

Phenomの発売後、すぐにTLBキャッシュを無効化するMSR変更コードを含むBIOSやOSによる対策が行われました。2008年3月からは、エラッタが解消されたB3ステップの製品が発売されました。通常、ステッピングの更新でモデルナンバーが変更されることはありませんが、B3ステップのPhenomはモデルナンバーが50増加しており、例外的な対応がなされました。

製品ラインナップ

Phenom X4

開発コード名: Agena (65nm SOIプロセス)
4コア統合パッケージ
L1キャッシュ: 各コア独立64 + 64 KiB
L2キャッシュ: 各コア独立512 KiB
L3キャッシュ: 全コア共有2048 KiB
拡張命令セット: Extended 3DNow!、SSE3、SSE4a、AMD64、Cool'n'Quiet、NXビット、AMD-V
対応ソケット: Socket AM2+

Phenom X3

開発コード名: Toliman (65nm SOIプロセス)
3コア統合パッケージ
L1キャッシュ: 各コア独立64 + 64 KiB
L2キャッシュ: 各コア独立512 KiB
L3キャッシュ: 全コア共有2048 KiB
拡張命令セット: Extended 3DNow!、SSE3、SSE4a、AMD64、Cool'n'Quiet、NXビット、AMD-V
対応ソケット: Socket AM2+

外部リンク

AMD Phenom™
Revision Guide for AMD Family 10h Processors (英語) - AMDによるエラッタに関するPDFドキュメント

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