ATR410

ATR410：幻に終わったイタリアの高速気動車

ATR410は、イタリアのフィアット社が開発した試験用気動車です。イタリア各地の非電化路線の高速化を目的に開発されましたが、実用化には至らず、その生涯を終えました。

開発の背景

当時、イタリア国鉄（現：トレニタリア）では、イオニア鉄道やサルデーニャ島の路線など、標準軌非電化路線の高速化が課題となっていました。そこで、フィアット社の鉄道部門は、自社の技術を結集し、高速走行が可能な気動車の開発に着手しました。開発されたのが、このATR410です。

2両編成で構成された車体は、当時フィアットが製造していた車体傾斜式高速電車・ペンドリーノのETR480に類似した外観をしていました。動力システムには、ディーゼルエンジンで発電機を回し、その電力で永久磁石同期電動機を駆動する方式を採用。ペンドリーノ同様の車体傾斜機構も搭載し、最高速度160km/hでの走行を可能としました。

この車両の導入計画に伴い、サルデーニャ島のイタリア国鉄所有路線の電化計画は中止されました。当時、大きな期待が寄せられていたことが伺えます。

試験と挫折

1997年、ATR410はサルデーニャ島などのイタリア各地の路線で試験運転を開始しました。しかし、試験中に永久磁石同期電動機の冷却に関して重大な問題が発覚しました。この問題は解決が難しく、導入を検討していた各地の路線からもキャンセルが相次ぎました。さらに、フィアット社の鉄道車両部門がアルストムに売却されたことも、開発中止の決定的な要因となりました。

開発に費やされた費用は1000万ユーロにものぼりましたが、結局ATR410が営業運転で使用されることはありませんでした。技術的な先進性はあったものの、課題を克服できず、幻の車両となってしまったのです。

現在の状況

現在は、ピエモンテ鉄道博物館に静態保存されています。当時の技術を伝える貴重な存在として、その姿を今に残しています。

関連車両

ATR365形・ATR465形：スペイン・CAF社製の振り子式気動車で、サルデーニャ島のトレニタリアが所有する標準軌路線で現在も営業運転に就いています。
ICE TD：ペンドリーノの技術を用いて製造されたドイツの高速気動車です。

ATR410は、イタリアの鉄道技術の歴史において、試行錯誤の過程を示す象徴的な車両と言えるでしょう。実現には至らなかったものの、その開発過程で得られた知見は、後の鉄道技術の発展に貢献したと考えられます。

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