BITNET

BITNET（ビットネット）とは

BITNET（ビットネット）は、1980年代にアメリカ合衆国の大学間で広く利用されていたコンピュータネットワークです。1981年に、ニューヨーク市立大学のアイラ・フュークスとイェール大学のグレイドン・フリーマンによって、両大学を結ぶネットワークとして始まりました。BITNETという名前は、「Because It's Time Network」の略ですが、当初は「Because It's There Network」の略とされていました。

インターネットとの違い

BITNETは、技術的な観点から見ると、インターネットとは異なる特徴を持っています。インターネットがTCP/IPプロトコルを使用するのに対し、BITNETはポイント・ツー・ポイントのストアアンドフォワード方式を採用していました。これは、電子メールやファイルが、宛先に届くまでネットワーク内の次のノードへ順番に転送される方式です。この点で、BITNETはUUCP（Unix to Unix Copy Protocol）に似ています。

ネットワークへの参加要件

大学がBITNETに参加するための条件は比較的シンプルでした。

BITNETのノードまでのデータ回線（電話回線）を確保すること。
接続点に接続するためのモデムを用意すること。
費用負担なしに、他の機関が自らのネットワークに接続することを許可すること。

技術的な詳細

BITNETは、NJE（ネットワークジョブエントリ）というネットワークプロトコルを使用していました。これは、IBMの社内ネットワークであるVNETで利用されていたRSCSプロトコルを基にしたものです。BITNETは当初、9600ボーで動作していました。その後、BITNETのプロトコルはIBM以外のメインフレームのオペレーティングシステムにも移植され、特にVAX/VMSでよく使われるようになりました。

BITNETでは、FTPやGopher、World Wide Webが登場する以前から、電子メールとLISTSERV（メーリングリスト）が広く利用されていました。メーリングリストのゲートウェイを通じて、Usenetでも利用できるようになりました。また、BITNETはファイルとメッセージの双方向転送をサポートしており、TRICKLEと呼ばれるゲートウェイサービスを通じて、インターネットのFTPサーバからuuencodeでエンコードされたファイルを分割して取得することもできました。さらに、Interchat Relay Network（一般にBITNET Relayとして知られる）というインスタントメッセージング機能も提供していました。BITNET初の電子雑誌「VM/COM」は、大学のニュースレターとして始まり、1984年前半には広く普及しました。1987年には、「the Electronic Air」と「SCUP Email News」という2つのニュースレターがBITNETで始まり、現在も発行されています。

BITNETは、非営利・教育目的での利用を基本方針としていたため、IBMを含む商業団体との情報交換は、技術支援やソフトウェアのバグ修正に関して制限されていました。

ネットワークの拡張

BITNETは、1991年ごろの最盛期には、500の組織と3000のノードにまで拡大しました。これらのノードはすべて教育機関であり、アメリカ合衆国だけでなく、カナダ（NetNorth）、ヨーロッパ（EARN）、イスラエル（ISRAEARN）、インド（VIDYANET）、ペルシャ湾岸諸国（GulfNet）にも広がっていました。南アメリカでは、1980年代後半から1990年代初頭にかけて約200のノードが接続され、活発に利用されました。東アジアでは、日本の東京理科大学や東京工業大学などが接続していました。

しかし、1990年代初頭にTCP/IPとインターネットが急速に発展するにつれて、学術目的でのIBMメインフレームの利用が減少し、BITNETの需要は急速に低下しました。

ネットワークの遺産

BITNET上で公開されたテキストベースのゲーム「MAD」は、1984年に世界初の広域MUD（Multi-User Dungeon）となりました。アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルのプレイヤーが、フランスのサーバーに接続してプレイしました。

1996年、CREN（Corporation for Research and Educational Networking）はBITNETのサポートを終了しました。各ノードはBITNETの回線を維持していましたが、参加するノードが減少し、ネットワークは分裂していきました。2007年現在、BITNETは実質的に機能していませんが、インターネット上でBITNETプロトコルを使用して情報をやり取りするBITNET IIが存在し、少数のユーザーが利用しています。

関連項目

インターネットの歴史

参考文献

A Social History of Bitnet and Listserv, 1985–1991
Living Internet – BITNET
* NetHistory – Archive of BITNET newsletters and stories (from archive.org)

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