C62ニセコ号

C62ニセコ号とは

C62ニセコ号（シーろくじゅうにニセコごう）は、北海道旅客鉄道（JR北海道）の函館本線において、1988年（昭和63年）4月29日から1995年（平成7年）11月3日までの期間限定で運行された特別な臨時快速列車です。この列車は、「デコイチ」ことD51形と並んで日本を代表する大型蒸気機関車であるC62形が、かつて急行列車などを牽引して活躍した区間を走るという点で、多くの鉄道ファンや旅行者の注目を集めました。

運行開始当初の区間は小樽駅から倶知安駅まででしたが、1990年（平成2年）5月3日以降はニセコ駅まで延長され、小樽駅 - ニセコ駅間を結びました。午前中に小樽を出発し、午後に戻るダイヤで、全区間の所要時間は約2時間でした。

ユニークな運行主体

このC62ニセコ号の最大の特徴は、その運行形態にありました。単にJR北海道が企画・運行する列車ではなく、北海道小樽市に拠点を置く民間の任意団体「北海道鉄道文化協議会」（通称：鉄文協）が、その中心を担っていたのです。

鉄文協は、一般の個人や企業からの寄付金を集めることで、C62形蒸気機関車の動態保存（再び走れる状態にすること）とそのための検査、さらには実際に列車を運行するための資金を確保しました。さらに、車内清掃や乗客への案内といったサービスは、鉄文協のボランティアスタッフによって行われていました。

彼らは、SLを貴重な産業文化財として後世に残すことを目指しており、必要以上に華美な装飾を施したり、特別な改造車両を用意したりすることはせず、現役時代のC62形牽引列車が走っていた頃の雰囲気を極力再現するという方針を採っていました。

運行終了とその後の車両たち

多くの人々の熱意によって支えられていたC62ニセコ号でしたが、その存続は経済状況に左右されました。バブル経済の崩壊に伴い、企業からの協賛金が減少し、SLの維持に不可欠な全般検査の費用を確保することが難しくなりました。加えて、日々の運行に必要な費用も次第に確保が困難となっていきました。

この状況を受け、鉄文協は1995年度の運行期間をもって活動を終了することを決定しました。こうして、1995年11月3日がC62ニセコ号の最後の運行日となり、翌1996年（平成8年）3月には鉄文協も解散しました。

C62ニセコ号の終了後、JR北海道は1999年（平成11年）に改めて自社主導でのSL列車運行を再開しますが、牽引機はより小型で維持費の抑えられるC11形タンク機関車となりました。

C62ニセコ号で使用されたC62 3号機は、運行終了後の1996年（平成8年）11月8日付で廃車となりましたが、現在は札幌苗穂工場内の北海道鉄道技術館に大切に静態保存されています。毎年開催される苗穂工場の一般公開時には、ディーゼル機関車に牽引される形で構内を短区間走行することもあります。

列車を彩った車両たち

C62ニセコ号は、牽引機のC62 3号機に加え、5両の客車を連結した編成で運行されました。ニセコ駅方面が1号車で、全車普通車・指定席でした。使用された客車は、以下の通りです。

• - 1号車：スハフ44 7（座席車）
• - 2号車：スハフ44 27（座席車）
• - 3号車：スハシ44 1（カフェカー）
• - 4号車：スハフ44 11（座席車）
• - 5号車：スハフ44 6（座席車）

牽引機であるC62 3号機は、運行開始前は小樽市にあった北海道鉄道記念館で静態保存されていましたが、JR北海道の苗穂工場で再び走行可能な状態に修復され、1988年3月3日付で車籍が復活しました。

客車5両は、国鉄時代から活躍し、JR北海道に引き継がれた保留車を活用したものでした。車体色は当時の客車標準色であった青色（青15号）のままとされ、極力、往年の急行列車に近い雰囲気が再現されました。編成の中間に組み込まれたスハシ44 1は、座席車であったスハフ44 2を改造した車両で、レトロな内装のカフェスペースが設けられ、主要スポンサーであったUCC上島珈琲のコーヒーなどが販売されていました。SL、客車ともに、このカフェ部分を除けば、大きな改造は施されていませんでした。

これらの客車も、C62 3号機と同じく1996年11月8日付で廃車となりました。しかし、その後の運命はそれぞれ異なります。スハフ44 6と7は、北海道ワイン株式会社によって現在も保存されています。スハフ44 11と27は、かつてユニトピア川端パークゴルフ場のレストハウスとして利用されていましたが、現在は同ゴルフ場が閉鎖されたため、その跡地にそのまま置かれています。一方、スハシ44 1（カフェカー）は、1999年（平成11年）に再び整備されて車籍が復活し、同年5月1日からは「SLすずらん号」の編成に組み込まれて再び活躍しました。

風光明媚な運行区間

C62ニセコ号が駆け抜けたのは、函館本線における札幌駅と長万部駅を結ぶ2つの主要ルートのうち、「山線」と呼ばれる景観豊かな区間です。この区間は、かつて1971年（昭和46年）まで、C62ニセコ号と同様にC62形蒸気機関車がスハ45形などの客車を牽引する急行「ニセコ」が運行されており、大型SLが活躍した歴史のある路線でした。停車駅は、小樽駅、余市駅、仁木駅、小沢駅、倶知安駅、ニセコ駅でした。

特別の装い

C62ニセコ号は、通常は特別なヘッドマークを装着せずに運行されましたが、限られた機会に特別なデザインのヘッドマークが掲げられることもありました。

例えば、1988年（昭和63年）7月26日には、ニセコの風景を描き、「SLC62 ニセコ」と横書きされたヘッドマークを付けて走行しました。また、鉄道友の会から「エバーグリーン賞」を受賞したことを記念したヘッドマークが、1989年（平成元年）12月3日の運行時と、最後の運行期間中の1995年（平成7年）11月2日に装着されました。

作品にも登場

C62ニセコ号は、その存在感や運行形態のユニークさから、いくつかの作品にも登場しています。

• - 漫画家の花輪和一氏の作品「コロポックル」
• - 推理作家の西村京太郎氏の小説「『C62ニセコ』殺人事件」
• - テレビ朝日系列で放送されたドラマシリーズ「さすらい刑事旅情編」

このように、C62ニセコ号は、単なる列車としてだけでなく、文化的な側面からも多くの人々の記憶に残る存在でした。

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