C/2025 F2 (SWAN)

彗星 C/2025 F2 (SWAN)

C/2025 F2 (SWAN)は、2025年に発見が報告された長周期彗星です。一時は近日点通過前後である2025年4月から5月にかけて、肉眼でも見える明るさになる可能性があると期待されていました。しかし、4月中旬頃から明るくなるペースが鈍化し、最終的には彗星の中心部である核が壊れてしまった可能性が高いと示されています。

発見と命名の経緯

この彗星は、太陽観測衛星SOHOに搭載されている観測装置SWAN (Solar Wind ANisotropies) が収集したデータの中に写っているのを、複数のアマチュア天文家が独自に見つけました。最初の報告は2025年3月29日、ウクライナのウラジミール・ベズグリ氏とオーストラリアのマイケル・マティアッゾ氏によって、それぞれ個別に天文電報中央局（CBAT）に行われました。その2日後の3月31日には、アメリカのロブ・マッツォン氏も、同じSWANデータから同じ天体を発見したと報告しています。発見が報告された3月29日当時、この天体の明るさは約11.5等級で、すでに太陽から約1億3718万キロメートル（約0.917天文単位）と、地球の軌道より内側に入り込んでいました。

発見当初、この彗星は暫定的にSWAN25Fと呼ばれていました。その後、多くの観測報告が寄せられましたが、軌道が正確に確定するまでは、小惑星センター（MPC）から公式な発表はありませんでした。そして、同年4月8日に小惑星センターが発行した電子通報（MPEC）にて、軌道を計算するのに十分なデータが集まったことから、SWAN25Fが正式にC/2025 F2 (SWAN)と命名されたことが発表されました。

軌道の特性

C/2025 F2 (SWAN)は、非常に細長い楕円軌道、言い換えれば軌道離心率がほぼ1に近い放物線軌道に極めて似た軌道を描く長周期彗星です。太陽系の外縁部に広がるオールトの雲から飛来してきたものと考えられています。また、太陽系の惑星が公転する面（黄道面）に対しては約90.4度と、ほぼ垂直に近い角度で交わる軌道を通ります。

NASA[ジェット推進研究所]が提供する計算システムによる試算では、太陽系の惑星からの重力の影響をほとんど受けていなかった遠い過去（1800年を基準とした計算）では、軌道を一周するのに約8万年かかっていたとされています。しかし、2025年5月1日頃に太陽から最も近づく近日点（約5000万キロメートル、約0.333天文単位）を通過した後、その軌道はさらに長い周期のものに変化しました。太陽や惑星の重力の影響をほとんど受けないほど十分に遠ざかった将来（2200年を基準とした計算）では、公転周期は約215万年にまで延びると予測されています。なお、この彗星は2023年1月29日には土星に約1億2925万キロメートル（約0.864天文単位）まで接近していたと考えられています。

観測の歴史と明るさの変化

C/2025 F2 (SWAN)に明確なコマ（彗星の核を取り巻くガスや塵の雲）が初めて観測されたのは2025年4月2日で、この時のコマの視直径は約2分角でした。彗星の発見がアマチュア天文家の間で共有されると、最初の報告よりも前に撮影された画像にもこの彗星が写っていたことが次々と報告されました。例えば、2025年3月26日に中国の星明天文台で撮影された画像には、約14等級の明るさで約30秒角（0.5分角）のコマが見えていました。さらに遡ると、2024年9月から10月にかけて、Pan-STARRS1望遠鏡やセロ・トロロ汎米天文台で撮影された画像にも写っており、その時は約22等級と非常に暗くぼんやりとした姿でしたが、すでにわずかな尾を伴っていたと考えられています。

2025年4月3日には明るさは約10等級になり、オーストラリアや日本からも淡い尾が観測されるようになりました。翌4月4日には、ドイツのアマチュア天文家マイク・マイヤー氏が25センチ望遠鏡で観測を行い、明るさを9.2等級と見積もりました。このとき、彼はコマの中心部が非常に凝縮して見え、球状星団のように見えたと報告しています。また、緑色に光って見えたことから、コマには二原子炭素などのガスが含まれており、それが太陽光で励起されて光っていることが示唆されています。

さらに翌日の4月5日には、この彗星は急激な増光（アウトバースト）を起こし、明るさは8等級ほどまで上昇しました。写真には尾が少なくとも2度以上に伸びている様子が捉えられました。4月7日にはスペインのアマチュア天文家ペペ・チャンボ氏が、明るさが8.3等級になり双眼鏡でも観測できるようになったと報告しています。また、尾の内部にジェット状の物質の流れが見られることも指摘しました。

しかし、4月下旬になると、近日点通過前にも関わらず、コマ周辺を除いて尾が観測されなくなり、明るさもやや暗くなる様子が見られるようになりました。これは、彗星の中心である核が崩壊してしまった可能性を示しています。もしこれが事実であれば、崩壊は4月5日頃の急激な増光時に始まり、4月16日から17日頃には核が完全に崩壊したと考えられています。

今後の見通し

4月5日頃に発生した急激な増光があったため、天文電報中央局は、今後近日点に近づくにつれて明るさがどう変化するかは非常に不確実だとしています。それでも、4月初旬までの観測データをもとにした計算では、近日点通過時には3.6等級まで明るくなると予測されていました（絶対等級H=8.5、日心距離依存係数2.5n=10の場合）。しかし、彗星観測家の吉田誠一氏がピークで5等級程度、天文学者のギデオン・ファン・バイテネン氏がピークでも7.5等級（肉眼では見えない明るさ）と予測するなど、専門家間でも予測に幅がありました。核崩壊の可能性が示唆されている現状では、これらの予測も大幅に変わる可能性があります。

近日点通過時の5月1日頃、C/2025 F2 (SWAN)はプレアデス星団の近くを通過すると予測されています。天球上を北から南へ縦断するように太陽へ近づくため、5月上旬以降は南半球からの観測に適した位置になると予測されていましたが、核崩壊によりその姿が見られるかは不確実な状況です。

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