Dialogue -Miki Imai Sings Yuming Classics-

今井美樹のキャリアにおいて、一つの特別な意味を持つカバーアルバムとして位置づけられるのが、2013年10月9日にユニバーサルミュージックジャパンからリリースされた『Dialogue -Miki Imai Sings Yuming Classics-』です。

本作は、今井美樹にとって2枚目のカバーアルバムにあたりますが、その最大の特長は、収録されている全ての楽曲が松任谷由実（通称ユーミン）の作品で構成されている点にあります。今井美樹は、自身が12歳の時に初めてユーミンの音楽に触れて以来、彼女の創り出す世界観に強く惹かれ、長年にわたり深い憧れを抱いてきました。そうした背景を持つ今井が、憧れの存在であるユーミンの楽曲を自身の声で表現することは、デビュー以来初めての試みでした。

実は、本作の制作は当初、レコード会社側からの企画提案によって始まりました。しかし、今井自身はユーミンの楽曲を「神聖なもの、触れることのできない存在」と捉える畏敬の念と、「他者からの提案で安易に動きたくない」というアーティストとしての矜持から、一度はこのオファーを固辞したといいます。ところが、その後、パートナーである布袋寅泰と共に活動拠点をロンドンに移し、自身のキャリアと人生における大きな節目となる50歳を迎えたことが転機となります。「この巡り合わせを逃してしまえば、二度とユーミンの楽曲と正面から向き合い、歌い継ぐ機会は訪れないかもしれない」という強い思いが芽生え、ついに本作の制作を決断しました。これまでのキャリアにおいて、今井美樹は洋楽や邦楽の様々なアーティストの楽曲をカバーしてきましたが、特定のたった一人の作家の作品だけでアルバムを構成するという試みは、本作が初めてのことでした。

本作に収録された12曲の選曲は、すべて今井美樹本人が手掛けました。選ばれたのは、荒井由実名義で発表された初期の作品群、そしてそれに続く比較的初期の松任谷由実名義の楽曲が中心で、1970年代から80年代にかけて発表された、今なお多くの人々に愛される名曲たちが厳選されています。アルバムの発売に際しては、原曲の作者である松任谷由実本人から、今井美樹の解釈に対する賛辞や応援のコメントが寄せられ、話題となりました。

レコーディングは、今井の当時の居住地であるロンドンで行われました。編曲とサウンドプロデュースは、数々の名だたるアーティストの楽曲を手掛けてきたSimon Hale（サイモン・ヘイル）が担当し、ユーミンの原曲が持つ普遍的な魅力を損なうことなく、今井美樹ならではの情感豊かなボーカルと洗練されたサウンドが融合した、新たな息吹を吹き込まれた楽曲たちが収録されています。

本作は音楽業界でも高く評価され、2013年末に発表された第55回日本レコード大賞において、企画賞を受賞しました。

収録曲は以下の通りです。

卒業写真 (from the ALBUM "COBALT HOUR" in 1975)
中央フリーウェイ (from the ALBUM "14番目の月" in 1976)
あの日にかえりたい (from the SINGLE in 1975)
人魚になりたい (from the ALBUM "SURF&SNOW" in 1980)
やさしさに包まれたなら (from the ALBUM "MISSLIM" in 1974)
シンデレラ・エクスプレス (from the ALBUM "DA・DI・DA" in 1985)
ようこそ輝く時間へ (from the ALBUM "PEARL PIERCE" in 1982)
霧雨で見えない (from the ALBUM "ダイアモンドダストが消えぬまに" in 1987)
青春のリグレット (from the ALBUM "DA・DI・DA" in 1985)
青いエアメイル (from the ALBUM "OLIVE" in 1979)
手のひらの東京タワー (from the ALBUM "昨晩お会いしましょう" in 1981)
私を忘れる頃 (from the ALBUM "VOYAGER" in 1983)

このアルバムは、今井美樹が長年のリスペクトを形にした意欲作であり、原曲のファンはもちろん、今井美樹のファンにとっても、ユーミンの名曲が新たな解釈で蘇った聴きごたえのある作品となっています。

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