ERC 90装甲車

ERC 90（Engin de Reconnaissance à Canon de 90 mm）は、フランスのパナール社が開発した6輪式の偵察用装甲車です。水上航行能力とNBC（核・生物・化学）防護能力を備えている点が特徴で、当初は輸出用として開発されましたが、後にフランス軍にも採用されました。

開発の経緯

1970年代後半、パナール社はフランス軍向けに新型装甲兵員輸送車を開発しましたが、フランス陸軍のトライアルでVAB装甲車に敗れました。しかし、この開発で得た技術を基に、ERC 90戦闘偵察車が設計されました。ERC 90は、フランス陸軍の主力戦闘偵察車であるAMX-10RCと比較して約半分の重量であり、ロッキードC-130やトランザールC-160といった中型輸送機での空輸が可能です。このため、山岳地帯での運用にも適していました。

1979年以降、ERC 90は海外からの採用に成功し、フランス陸軍も空挺部隊や山岳部隊において、AMX-13軽戦車やAML 60/90装甲車の後継車両として、APFSDS弾を発射可能なERC 90 F4を配備することを決定しました。1984年から配備が開始されています。

機動力の秘訣

ERC 90の機動力の秘密の一つは、中央部の左右両輪を必要な時に持ち上げ、4x4と6x6のそれぞれの利点を活用できる点にあります。整地された路面では車輪を持ち上げて高速性能を確保し、泥濘地などの軟弱な地盤では車輪を下げて接地圧を分散させることで、優れた不整地走破能力を発揮します。この機構は、同じパナール社が設計したEBR装甲車や、ソ連製のBRDM-1/BRDM-2装甲偵察車にも搭載されています。

多様な派生型

ERC 90には、様々な派生型が存在します。

EMC 91: イスパノ・スイザ社製EMC砲塔に81mm迫撃砲を搭載した自走迫撃砲。
ERC 20: 20mm機関砲2門を装備した自走式対空砲仕様。
ERC 60-20: イスパノ・スイザ60-20連装砲塔に、60mm迫撃砲と20mm機関砲を装備したモデル。
ERC 90 (Diesel): ディーゼルエンジン搭載型。
ERC 90 F1 リンクス: AML装甲車と同じイスパノ・スイザLynx 90砲塔を搭載したモデル。
ERC 90 F4 サゲー: GIAT TS 90砲塔を搭載したモデルで、フランス軍が採用しているタイプ。サゲーとはアフリカ先住民族が使う槍のこと。
ERC 90 サゲー2: エンジンを2基搭載し、砲塔を改良した強化型。採用したのはガボンのみ。
VCR装甲兵員輸送車: ERCのシャーシを元に設計された装甲兵員輸送車。

各国での運用

ERC 90は、フランスの他、アルゼンチン、メキシコ、エクアドル、チャド、コートジボワール、ガボン、ナイジェリア、イラクなど、多くの国で運用されています。フランス陸軍では、以下の部隊で運用されています。

第1驃騎兵落下傘連隊
第4猟兵連隊
第1アフリカ猟兵連隊
第13外人准旅団
第6海兵歩兵大隊
第23海兵歩兵大隊
第43海兵歩兵大隊
太平洋ニューカレドニア海兵歩兵連隊

実戦での活躍

ERC 90は、フランス軍によって湾岸戦争、ユーゴスラビア内戦、マリ北部紛争などの実戦に投入されました。また、イラク軍もイラン・イラク戦争や湾岸戦争で使用しています。

参考文献

ArmyRecognition.com -ERC-90 / VCR装甲兵員輸送車（フランス語）

関連項目

偵察戦闘車
AMX-10RC
パナール
AML装甲車
EBR装甲車

もう一度検索