FILL

FILL（フィル）とは

FILLは、かつてパイオニア（現オンキヨーテクノロジー/ティアック）のホームAV機器事業部から発売されていたハイコンポ、いわゆるプレミアムミニコンポのブランド名です。1998年から2002年にかけて、その高音質と革新的な技術でオーディオ愛好家を魅了しました。FILLは、一般的なミニコンポを凌駕する音質を追求し、セパレート型と一体型の両方で幅広い製品を展開しました。

概要

FILLの歴史は1998年、初代モデル「X-NT7MD」と上位機種「X-NT9MD」の発売から始まりました。これらのモデルは、各コンポーネントが単品販売されており、ユーザーは必要な装置だけを自由に組み合わせてシステムを構築できるという、当時の高級オーディオ機器と同様のコンセプトを採用していました。1999年にはCDレコーダーがラインナップに加わり、2000年には一体型システム「X-RS7」が登場しました。同年には、初代FILLの後継機として「X-NT77MD」と「X-NT99MD」が発売され、さらにCDレコーダー内蔵一体型システム「X-RS9R」も登場しました。2001年には「X-RS7」の後継機として「X-RS77」と上位機種「X-RS77PRO」が発売されました。そして2002年、一体型システム「X-RS70」の発売をもってFILLの販売は終了しました。

FILLのロゴには「Wide Range System」という文字が添えられており、その言葉通り、一般的なミニコンポを大きく超える広帯域な周波数特性を実現していました。特に99シリーズでは、アンプ部が3Hz～150kHz、スピーカー部が35Hz～60kHzという驚異的な数値を誇りました。また、カタログに記載された「ナチュラル・サウンド・システム」という言葉が示すように、耳当たりの良い自然な音質が特徴でした。

主な製品

セパレート型（初代）

アンプ

FILLのアンプ部は、「ワイドレンジリニアサーキット」と「ダイレクトエナジーMOS FET」という2つの特徴的な技術を搭載していました。

ワイドレンジリニアサーキット：電流帰還型回路による1段増幅で必要なゲインを得ることで、広帯域にわたってフラットなダンピングファクターを実現。また、通常スピーカー出力に挿入されるチョークコイルなどを排除し、回路のシンプル化とコンパクト化を達成しました。
ダイレクトエナジーMOS FET：通常のMOS-FETやバイポーラトランジスタと比較して、負荷電流対飽和電圧特性に優れ、エネルギーロスが少なく、連続した大電流に強いという特徴を持っていました。FILLの単品アンプでは、このMOS FETをシングルプッシュプルで用いることで、「ワイドレンジリニアサーキット」と合わせてシンプルな回路構成を実現していました。

CDプレーヤー

CDプレーヤーには、「レガート・リンク・コンバージョン」と「Zコンセプト」という2つの独自の技術が搭載されていました。

レガート・リンク・コンバージョン：スローロールオフ型デジタルフィルターを用いて、疑似的に20kHz以上の高周波成分を生成することで、高域の滑らかな音質を実現しました。
Zコンセプト：CDから読み取ったアナログ電気信号を正確にデジタル信号に変換するアキュレートEFM回路によってジッターを低減しました。また、ピックアップレンズにはコリメータレンズを削除して信号のロスを低減した、自社開発の「クリーンレーザーピックアップ」が搭載されました。CDレコーダーとの組み合わせも可能でしたが、CD-RWディスクには対応しない場合がありました。

MDレコーダー

MDレコーダーには、独自の「ARTIST（Advanced RealTime Signal Tuning）システム」が搭載されていました。このシステムは、ATRACによる音声圧縮時に並行して信号分析を行い、聴感上重要と思われる帯域に優先的にデータを割り当てるというものでした。また、「レガート・リンク・コンバージョン」も搭載していました。

CDレコーダー

CDレコーダーには、「レガート・リンク・コンバージョン」（再生時のみ）が搭載され、「ストラテジー・コントロールIC」によりディスクの状態に合わせた最適な記録が可能でした。

カセットデッキ

カセットデッキには、デジタル・プロセッシング・システムが搭載され、再生時にA/D変換を行い、デジタル領域で音質を補正しました。また、「デジタル・ノイズリダクション」と「レガート・リンク・コンバージョン」、ドルビーBタイプ/Cタイプ NRを搭載していました。トランスポートには、トレイローディングを用いた2ヘッド方式の録音・再生オートリバース機構が採用され、ノーマルポジション用とハイポジション用のテープに対応していました（メタルポジション用テープは再生時のみ対応）。

各モデル

X-NT7MD（MDなしの場合はX-NT7）：
APX-N701（アンプおよびCDチューナーのセット）
MJ-N901（MDレコーダー）
S-N701-LR（スピーカー）：13cmコーン型ウーファーと2.5cmドーム型ツイーターによる2ウェイスピーカーシステム
X-NT9MD（MDなしの場合はX-NT9）：
APX-N901（アンプおよびCDチューナーのセット）：APX-N701と比較して電源トランスやコンデンサが強化され、アナログ入力端子とスーパーウーファー出力端子が装備されていました。CDチューナー部は同一です。
MJ-N901（MDレコーダー）：X-NT7MDと同一
S-N901-LR（スピーカー）：16cmコーン型ウーファー、3.5cmドーム型ミッドレンジ、2.5cmドーム型ツイーターによる3ウェイスピーカーシステム
オプション
PDR-N901（CDレコーダー）
T-N901（カセットデッキ）
B-N701（オーディオラック）

セパレート型（2代目）

2代目では、電源ケーブルが極性表示付きの着脱式になるなど、初代からさらに高音質化が図られました。また、色調が若干明るめに変更されました。

アンプ

CDレコーダー用に入出力端子が追加されました。

CDプレーヤー

「レガート・リンク・コンバージョン」が「24bit・レガート・リンク・コンバージョン」にグレードアップされました。これにより、CDの16bit信号を24bitに拡張して、微小信号の再現性を高めました。DACにはシングルビットタイプを搭載し、CD-R/RWの再生やCD-TEXTの表示に対応しました。

CDレコーダー

「24bit・レガート・リンク・コンバージョン」を搭載し、DACにはマルチレベルデルタシグマDACが採用されました。

スピーカー

ウーファーには、新たにケブラーが配合されたものが搭載され、クラス初のアルミキャストフレームが採用されました。

各モデル

X-NT77MD（MDをCDRに置き換えたものはX-NT77R）：
APX-N702（アンプおよびCDチューナーのセット）
MJ-N902（MDレコーダー）
（PDR-N902（CDレコーダー））
S-N702-LR（スピーカー）：13cmコーン型ウーファーと2.5cmドーム型ツイーターによる2ウェイスピーカーシステム。OFCスピーカーケーブルが付属。
X-NT99MD（MDをCDRに置き換えたものはX-NT99R）：
APX-N902（アンプおよびCDチューナーのセット）：APX-N702と比較して電源トランスやコンデンサが強化され、フォノ入力端子とスーパーウーファー出力端子が装備されていました。CDチューナー部は同一です。
MJ-N902（MDレコーダー）：X-NT77MDと同一
（PDR-N902（CDレコーダー））：X-NT77Rと同一
S-N902-LR（スピーカー）：16cmコーン型ウーファー、3.5cmドーム型ミッドレンジ、2.5cmドーム型ツイーターによる3ウェイスピーカーシステム。SZ-OFCスピーカーケーブルが付属。
オプション
T-N902（カセットデッキ）
B-N902（オーディオラック）
PL-J2500（アナログプレーヤー）
S-W3（パワードサブウーファー）
システムコントロールコード：ADE7032
FILLシリーズのセパレート型コンポーネント（初代・二代目とも、アンプ/CDチューナ/MD/TAPE/CDR）を接続して連動させることができました。2010年12月現在でも、電気店経由で注文により入手可能でした。(価格は500円)

一体型

X-RS7

3枚CDチェンジャーとMDデッキを搭載していました。オプションとしてカセットデッキ「T-RS7」がありました。
主要技術：「レガート・リンク・コンバージョン」「ARTISTシステム」「ケブラー繊維配合ウーファー」

X-RS9R

一体型ミニコンポで世界初のCDレコーダー搭載機でした。3枚CDチェンジャーからの録音が可能で、フォノ入力端子も搭載しており、アナログプレーヤーからの録音にも対応していました。
主要技術：「レガート・リンク・コンバージョン」「ストラテジー・コントロールIC」「ケブラー繊維配合ウーファー」

X-RS77

X-RS7の後継機で、3枚CDチェンジャーとMDLP対応のMDデッキを搭載していました。MDLPはグループ機能に対応していました。オプションとしてX-RS7のカセットデッキ「T-RS7」が使用可能でした。
主要技術：「レガート・リンク・コンバージョン」「ARTISTシステム」

X-RS77PRO

X-RS77の上位機種で、ブラック系のカラーリングが特徴でした。X-RS77をベースにコンデンサを強化し、極性表示付き電源ケーブル、OFCスピーカーケーブル、アルミキャストフレームをスピーカーに搭載していました。

X-RS70

FILL最終モデルで、X-RS77の後継機でした。3枚CDチェンジャーとMDLP対応のMDデッキを搭載していました。MDLPはグループ機能に対応しており、高品位なコンデンサ、極性表示付き電源ケーブル、OFCスピーカーケーブルが搭載されていました。オプションとしてX-RS7のカセットデッキ「T-RS7」が使用可能でした。
主要技術：「レガート・リンク・コンバージョン」「ARTISTシステム」

関連項目

パイオニア
オンキヨーホームエンターテイメント
オンキヨー&パイオニア
* ミニコンポ

もう一度検索