FV603 サラセン

FV603 サラセン：イギリス生まれの多用途装甲兵員輸送車

FV603 サラセンは、イギリスのアルヴィス社によって開発された6輪式の装甲兵員輸送車です。この車両は、世界各国で幅広く使用され、特にイギリス軍においては、北アイルランド紛争などの実戦で重要な役割を果たしました。サラセンという名称は、中世ヨーロッパ世界でイスラム教徒を指す言葉に由来しています。

開発の背景

サラセンは、アルヴィス社が開発したFV600シリーズの装甲兵員輸送車版として誕生しました。当時、大量の装甲兵員輸送車を必要としていたイギリス軍の要請に応え、同シリーズのFV601 サラディン装甲車よりも早く、1952年には量産が開始されました。この迅速な開発と生産は、当時のイギリス軍のニーズを反映したものでした。

車両の構造と性能

サラセンは、運転手と指揮官に加え、1個分隊に相当する8名の歩兵と分隊長を収容することが可能です。車体上部のターレットにはL3A4（M1919重機関銃）が、車体後部の銃眼にはブレン軽機関銃が装備されていました。後に、L3A4はL7（FN MAG）汎用機関銃に換装されました。これらの武装は、歩兵輸送だけでなく、火力支援も可能にしました。

1962年以降、サラセンは装軌式のFV432に更新され、第一線部隊からは退きましたが、装輪式である利点を活かして、北アイルランドにおける警備任務に投入されました。また、サラセンは装甲指揮車や野戦救急車としても使用され、その汎用性の高さを示しました。

派生型

FV600シリーズには、サラセン以外にも共通のシャーシを使用したFV601 サラディン装甲車などが存在します。また、サラセン自体にも様々な派生型が存在し、特定の任務や地域での運用に特化した改良が施されました。

Mk.1: 3ドア式のハッチと銃眼を備えたターレットを持つ初期型。
Mk.2: Mk.1の改良型で、ターレットのハッチが2ドア方式に変更。
Mk.3: 熱帯地仕様。
Mk.4: 試作のみで実戦投入されず。
Mk.5: 北アイルランドでの使用を想定し、Mk.1やMk.2に装甲版を追加した改修型。
Mk.6: Mk.3をベースに、Mk.5と同じ追加装甲を施した北アイルランド仕様。

使用国

サラセンは、イギリスをはじめとする多くの国で使用されました。主な使用国は以下の通りです。

イギリス
ブルネイ
ナイジェリア
香港
インドネシア
スリランカ
南アフリカ共和国
ヨルダン
クウェート
タイ


イギリス軍では、1954年から1969年まで第一線部隊で使用され、北アイルランドでは1991年まで運用されました。香港では、香港警察が使用していたことで知られています。

実戦での運用

サラセンは、イギリス軍において、マレー紛争や北アイルランド紛争で主に活躍しました。また、スエズ危機でも運用されたと考えられています。ナイジェリアでは、ビアフラ戦争で使用された可能性が指摘されています。これらの実戦経験から、サラセンの耐久性と信頼性が証明されました。

登場作品

サラセンは、映画『北京原人の逆襲』に登場しています。劇中では、香港警察所属の車両として登場し、香港の街中で暴れまわる北京原人に対して攻撃を行うシーンが描かれています。

関連項目

アルヴィス
FV601 サラディン
BAEシステムズ
軍用車両
装甲車
装甲兵員輸送車

サラセンは、その設計思想、実戦での活躍、そして数々の派生型から、装甲兵員輸送車の歴史において重要な位置を占める車両と言えるでしょう。

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