GOLDEN J-POP/THE BEST 太田裕美

『GOLDEN J-POP/THE BEST 太田裕美』：アーティスト自身が紡ぐ音楽世界

1997年にSMEJよりリリースされた2枚組のベストアルバム、『GOLDEN J-POP/THE BEST 太田裕美』は、太田裕美の音楽キャリアを彩る数々の名曲を収めた作品です。このベスト盤が特筆すべき点は、アーティストである太田裕美自身がプロデュースを手がけていることにあります。単なる既成の選曲集にとどまらず、自身の音楽に対する深い愛情と理解に基づいた意欲的な作品と言えるでしょう。

また、本作の大きな魅力の一つが、付属の歌詞カードに掲載された、収録曲それぞれに対する太田裕美本人による解説です。楽曲が誕生した背景やレコーディング時の想い、歌に込められた心情などが率直に綴られており、ファンにとってはそれぞれの曲にまつわるエピソードを知ることができる貴重な資料となっています。これにより、リスナーは単に楽曲を聴くだけでなく、よりパーソナルな視点から太田裕美の音楽世界に触れることが可能になります。

アルバムはDisc 1とDisc 2の2枚構成で、彼女の初期から中期、そして後期にかけての楽曲をバランス良く網羅しています。

Disc 1には、太田裕美の代名詞とも言える作詞：松本隆、作曲：筒美京平コンビによる名曲が多数収録されています。「木綿のハンカチーフ」をはじめ、「九月の雨」「赤いハイヒール」「最後の一葉」といった、叙情的な詞世界とメロディが心に響く代表曲が並びます。筒美京平は他にもデビュー曲「雨だれ」や「夕焼け」「恋人たちの100の偽り」などを手がけており、初期の太田裕美サウンドの基盤を築きました。また、荒井由実（松任谷由実）が作曲した独特の雰囲気を放つ「袋小路」や、松本隆・佐藤健による「青春のしおり」なども収録され、初期における作家陣の多様性も伺えます。編曲は萩田光雄が多くの楽曲で担当し、筒美京平、林哲司らと共に楽曲の世界観を丁寧に作り上げています。

一方、Disc 2では、キャリアを重ねる中でさらに広がった音楽性がうかがえます。大瀧詠一が作曲を手がけた軽快なポップス「さらばシベリア鉄道」や、幻想的な「恋のハーフムーン」、ブルージーな「ブルー・ベイビー・ブルー」は、ナイアガラサウンドとの心地よい融合を示しています。伊勢正三による普遍的なバラード「君と歩いた青春」は、多くのリスナーの共感を呼びました。荒井由実が作詞・作曲した「青い傘」もここに収録されています。さらに、シンガーソングライターとしての才能も発揮し始めた太田裕美自身の作曲による楽曲が複数収められているのも特徴です。「ガラスの世代」をはじめ、「移り気なマイ・ボーイ」「満月の夜 君んちへ行ったよ」「青い実の瞳」「はじめてのラブレター」「Virginから始めよう」など、自身の内面や時代感覚を反映させた楽曲は、アーティストとしての成長を感じさせます。このDiscには、来生えつこ、浜田金吾、網倉一也、小比野木七枝子、山元みき子、板倉文、奥山六九、GONTITIといった多彩な作家陣が楽曲を提供しており、編曲家も大村雅朗、萩田光雄、大瀧詠一、松任谷正隆、井上鑑、羽毛田丈史と豪華な顔ぶれが揃っています。

『GOLDEN J-POP/THE BEST 太田裕美』は、単にヒット曲を集めただけでなく、太田裕美というアーティストの多面的な魅力を紹介する優れたベストアルバムです。本人が選曲し、プロデュースし、そして自らの言葉で解説を添えたこの作品は、太田裕美の音楽世界を深く知るための入り口として、また長年のファンにとっては彼女と共に歩んだ軌跡を振り返る貴重な一枚となるでしょう。澄んだ歌声と、時代を超えて愛される名曲たちが、今もなお輝きを放っています。

もう一度検索