HATS-72

HATS-72 (Zembra)

HATS-72は、地球からおよそ413光年離れたみずがめ座の領域に存在する恒星です。この恒星は、いくつかの観測プロジェクトによって独立に検出され、WASP-191やTOI-294といった名称でも知られています。その見かけの明るさは12.469等級とされており、肉眼で観測することはできません。

恒星の特性

HATS-72は、太陽よりも小型で低温のK型矮星に分類される恒星です。推定される質量と半径は、いずれも太陽のおよそ7割強となっています。表面温度は比較的低温で、約4,700ケルビン（K）程度です。これにより、放出される光は太陽に比べて弱く、その光度は太陽の約22%に過ぎません。興味深いことに、この恒星の年齢はおよそ120億年と見積もられており、これは太陽（約46億年）と比較して非常に高齢な天体であることを示唆しています。

惑星系の発見

2020年、天文学者たちはトランジット法と呼ばれる観測手法を用いて、HATS-72の周囲を公転する太陽系外惑星を発見しました。この惑星はHATS-72bと名付けられました。HATS-72bの存在は、HAT-Southプロジェクトだけでなく、WASPプロジェクトやTESS（トランジット系外惑星探索衛星）によっても独立に確認されており、それぞれWASP-191b、TOI-294.01といった名称でも呼ばれています。

HATS-72bは、恒星の手前を通過する際に生じるわずかな減光を捉えることで発見されました。さらに、地上の大型望遠鏡を用いた精密な視線速度測定が行われた結果、この惑星の質量が非常に高い精度で決定されました。

惑星 HATS-72b の特徴

HATS-72bは、質量が木星の約8分の1という特徴を持ち、これは「スーパーネプチューン」と呼ばれる種類の系外惑星に相当します。スーパーネプチューンは、海王星よりも大きく、木星よりも小さいガス惑星や氷惑星を指すことが多いですが、HATS-72bの詳しい組成はまだ不明です。この惑星の半径は、木星のおよそ7割と推定されています。恒星HATS-72のすぐ近くを公転しており、その軌道周期は約7.33日と短いことが分かっています。

正式名称：Zembra と Zembretta

HATS-72星系は、2022年に国際天文学連合（IAU）が実施した太陽系外惑星系の命名キャンペーン「NameExoWorlds 2022」において、公募による命名対象の一つに選ばれました。このキャンペーンは、IAUが「持続可能な発展のための国際基礎科学年（IYBSSD2022）」の参加機関として企画したものです。世界中から提案が寄せられ、2023年6月に最終結果が発表されました。

その結果、恒星HATS-72は「Zembra」、惑星HATS-72bは「Zembretta」と正式に命名されました。これらの名称は、チュニジアのチュニス湾に浮かぶ島々に由来しています。Zembra島は、野生動物や海鳥の宝庫として知られる美しい島であり、その近くにある小さな島がZembrettaです。これらの島々は、ユネスコの「ZembraおよびZembretta諸島生物圏保護区（Iles Zembra et Zembretta Biosphere Reserve）」の一部として保護されており、生物多様性の保全上重要な地域です。この命名は、天文学が文化や自然遺産と結びつく例と言えるでしょう。

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