HD 192310

HD 192310

やぎ座の方向およそ29光年彼方に輝く恒星、HD 192310は、私たちの太陽系に比較的近い場所に位置しています。HR 7722やグリーゼ785といった別名でも知られており、適切な条件下、例えば郊外の暗い夜空であれば、特別な観測機器を用いなくともその光を捉えることが可能です。

恒星自身の特徴

この恒星は、太陽よりもやや温度が低いK型主系列星に分類され、詳細なスペクトル型はK3 Vとされています。その質量は太陽の約8割程度で、表面の実効温度はおよそ5,166ケルビンです。この温度帯から放たれる光のため、HD 192310の光球は特徴的な橙色に見えます。現在の推定では、その年齢は約78億年とされており、これは約46億年の太陽よりも古い天体であることを示唆しています。恒星を構成するヘリウムより原子量が大きい元素、いわゆる金属の存在比は、太陽と同程度と見積もられています。また、自転速度は比較的遅く、おおよそ48日をかけて一回転していることがわかっています。

かつて、天文学者グールドによって変光星である可能性が指摘され、その後の変光星総合カタログにも候補として登録されていますが、現在の観測データからはその変光性は確定していません。

宇宙空間での運動

銀河系内におけるHD 192310の動きは、その空間速度成分が(U, V, W) = (-73, -12, -19) km/sと測定されています。これは、太陽系からの相対的な速度ベクトルを示しています。この速度に基づき軌道を計算すると、銀河中心からの平均距離が約2万6千光年で、やや楕円率（離心率0.19）を持った軌道を描いていることが推測されます。予測によれば、現在からおよそ8万2200年後には、この恒星が太陽系に最も接近し、その際の距離は約20光年になると見積もられています。

惑星系の発見

HD 192310の周りには、少なくとも二つの系外惑星が存在することが確認されています。

1. HD 192310 b: 最初の惑星であるbは、2010年にハワイにあるケック望遠鏡を用いた視線速度法という観測手法によって発見が報告されました。この方法は、恒星のわずかな揺れを捉えることで、周囲を公転する惑星の重力を検出するものです。惑星bは海王星に匹敵する質量を持つとされています。
2. HD 192310 c: 翌2011年には、チリのラ・シヤ天文台にある高精度視線速度系外惑星探査装置「HARPS」による追観測が行われ、惑星bの存在が確定すると同時に、新たな惑星cの発見が確認されました。惑星cも、その物理的な構造は海王星に似ていると考えられています。

惑星cの質量については、公転周期全体のデータがまだ十分に得られていないため、惑星bに比べて推定値の不確実性が大きいという特徴があります。これらの二つの惑星は、母恒星HD 192310の周囲に設定される「ハビタブルゾーン」（液体の水が存在しうる、生命維持に適した可能性のある領域）の、内側と外側の境界付近をそれぞれ公転しているとみられています。

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