HQ-61 (ミサイル)

HQ-61（紅旗-61）ミサイルシステム

HQ-61（紅旗-61）は、中華人民共和国が開発した短距離対応型の地対空ミサイルおよび艦対空ミサイルシステムです。地対空型はHQ-61A、艦対空型はHQ-61Bと命名され、後に改良された艦対空型はHQ-61Mと呼ばれます。特にHQ-61Bには、北大西洋条約機構（NATO）によってCSA-N-2というコードネームが付与されました。

開発の経緯

1960年代初頭、中国人民解放軍陸軍の防空は、ソ連のS-75ドヴィナー（SA-2ガイドライン）やその中国生産版であるHQ-1/HQ-2といった高高度・長射程ミサイルに依存していました。これらのシステムは遠距離の目標には有効でしたが、低高度や短距離での迎撃能力が不足しており、当時の対空砲ではこの防空網の隙間を埋めることができませんでした。この問題に対処するため、近距離・低高度を担う新たな地対空ミサイルシステムとして開発が計画されたのが本システムです。当初はHQ-41の名称で呼ばれていましたが、1965年1月にHQ-61へと改称されました。

一方、当時の中国人民解放軍海軍は、旧式の艦砲や機関砲しか対空兵器として保有しておらず、海上での防空能力は極めて低い状況でした。この状況を改善するため、陸軍向けに開発中のHQ-61を艦艇に搭載することが決定されます。艦対空ミサイルを全く持たない海軍のニーズが陸軍よりも切迫していると判断されたため、艦載型の開発が優先されることになり、1967年には開発担当機関が北京から上海の上海機電第二局に移管されました。

開発コンセプトの策定にあたり、当時のアメリカで進められていた個艦防空ミサイル、シースパローBPDMSを参考に、その基となったAIM-7スパロー中距離空対空ミサイルをモデルとすることが選ばれました。しかし、この分野での開発経験が乏しかった中国にとって、HQ-61の開発は多くの困難に直面します。1966年から67年頃、海南島付近で墜落したアメリカ海軍のF-4BファントムII戦闘機の残骸からAIM-7スパローの実物を回収することに成功し、この実機や関連資料が開発の重要な手がかりとなりました。

当時の中国の電子技術水準がまだ低かったため、技術的な障壁はなおも高く、1970年頃より実射試験が開始されましたが、度重なる試験の中断と大規模な設計変更が求められました。1976年12月には初の海上実射試験が実施されましたが、依然として多くの改良が必要であることが判明しました。さらに、1960年代後半から70年代前半にかけて中国全土を覆った文化大革命による社会的な混乱も開発をさらに遅延させました。

1970年代後半からの西側諸国との関係改善に伴う技術導入により、HQ-61の実用化に向けた道が開かれました。1984年11月には標的機を用いた射撃試験、1986年11月から12月にかけては艦載版の試験が成功裏に実施されました。これらの成功を受けて、1988年11月、HQ-61艦載型は制式採用され、HQ-61Bの名称が与えられました。同時期に地上型のHQ-61Aも制式化されたとされています（時期については異説あり）。後に配備された密閉式キャニスターを使用する改良艦載型はHQ-61Mとも称されます。

しかし、同時期にフランス製のクロタルが導入され、中国版HQ-7として陸海軍に広く配備されたこと、また陸軍にはロシア製9K330トール（SA-15ガントレット）も導入されたことから、HQ-61の配備は限定的なものにとどまりました。とはいえ、特に海軍においては、初めて手にした艦対空ミサイルであるとともに、本格的なHQ-7が登場するまでの間、艦隊の防空能力を支えたという点で、歴史的に重要な意義を持つシステムです。

システム構成（艦載版）

HQ-61艦対空ミサイルシステムは、中国海軍で初めて江東型フリゲートに搭載され、続いて江衛I型（053H2G型）フリゲートにも搭載されました。主要なコンポーネントは以下の通りです。

対空捜索レーダー
江東型では、381型（シー・イーグル）3次元対空捜索レーダーが1基搭載されました。これは周波数走査（FRESCAN）方式を採用し、Cバンドを使用します。最大探知距離は200km、戦闘機サイズの目標に対しては100km以上の探知能力を持ち、50個の目標を探知しつつ20個を追尾可能でした。対水上目標の探知能力も備えていましたが、地上や海面からの反射波（クラッター）を除去する能力が低く、江東型以外では旅海型（051B型）駆逐艦のごく一部に搭載されたにとどまります。

江衛I型フリゲートではこの点を改善し、長距離捜索用の517H-1型（Knife Rest）レーダーと低空警戒用の360型レーダーの組み合わせで搭載されました。517H-1型は特徴的な八木・宇田アンテナを組み合わせたアンテナ形状を持ち、I(A)バンドを使用して最大300kmを探知します。360型レーダーはイタリア・セレニア社のRAN-10Sレーダーを中国が導入したもので、S(E/F)バンドを使用し、最大10,000mの高度目標を探知でき、優れたクラッター除去能力を備えています。

射撃指揮レーダー
HQ-61ミサイルシステムにおいては、目標の追尾、射撃諸元の計算、ミサイルの誘導に使用される射撃指揮レーダーとして、一貫して342型（ZL-1、NATOコードネーム：フォグ・ランプ）レーダーが採用されています。これはC-X（H-I）バンドを使用します。

江東型（053K型）では2基が搭載されました。これにより、1基がミサイルを誘導中にもう1基が別の目標を追尾し、次に備えることが可能でした。一方、江衛I型フリゲート（053H2G型）は汎用フリゲートとして設計され対空ミサイル装備の優先度が低かったため、342型レーダーは1基のみの装備となりました。

ミサイル発射機
江東型（053K型）には、連装の発射機が2基搭載されました。これらの発射機は縦横二軸の安定化装置を備え、初期のターター・システムで使用されたMk.10 GMLSに構造が似ていますが、ミサイルはレール上部に搭載される方式でした。ミサイルは船体下部の回転式弾薬庫に垂直に格納されており、各格納庫に12発、合計24発のミサイルを搭載できました。しかし、発射ごとに手動で再装填する必要があり速射性に劣り、ミサイルが外部環境に露出するため風雨や塩害の影響を受けやすかったことが欠点でした。ミサイル自体の射程が短く、また搭載艦が比較的小型であったことを考えると、これらの欠点は実運用上の大きな制約となりました。

これらの問題を改善するため、江衛I型フリゲート（053H2G型）には新型のH/EFB02発射機が導入されました。これはミサイルを密閉された円筒形キャニスターに収めた6連装 configuration を採用したことで、外部環境の影響を排除しミサイルの信頼性を向上させました。しかし、ミサイルの翼を折り畳む構造ではなかったためキャニスターは大型化し、ミサイル本体の重量も約300kgと重く、実戦下での再装填は事実上困難であったため、1つの発射機からは最大6発の発射しかできず、継続的な戦闘能力には限界がありました。この6連装キャニスター式発射機を使用するタイプをHQ-61Mとも称します。

HQ-61ミサイル
既に述べたように、HQ-61はアメリカのAIM-7スパロー中距離空対空ミサイルをモデルとしています。しかし、スパローが弾体中央に操縦翼、尾部に安定翼を配し、いずれも十字型 configuration を採用していたのに対し、HQ-61は弾体中央に十字型の安定翼、尾部にX字型の操縦翼を配置しています。誘導方式として無線指令誘導が追加された点も異なります。当時の中国のロケットモーターや電子技術の成熟度が低かったため、弾体はスパローに比べてやや大型化しています。

1980年代末にはイタリア製アスピーデ中距離空対空ミサイルの技術が導入されており、これがHQ-61の改良に活かされたとも言われています。性能的には、初期のシースパローBPDMSシステムで使用されたRIM-7Eミサイルにおおむね匹敵するものとされ、固体燃料ロケットで推進され、最大速度マッハ3、有効射程2.5～10km、最大射高は8,000mであるとされています。

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