I-dio

i-dio：日本のマルチメディア放送サービスとその終焉

2016年7月から2020年3月まで、VHF-Low帯を利用した無料のマルチメディア放送サービスとしてi-dio（アイディオ）が日本で展開されていました。地上デジタル放送の実用化試験放送における有料放送をめぐる協会と放送局間の対立が、i-dio計画発足のきっかけとなりました。本サービスは、地上アナログテレビ放送が終了したVHF-Low帯を利用した移動受信用地上基幹放送として位置づけられていました。

サービス開始と運営体制

2016年3月には東京、大阪、福岡でプレ放送を開始。その後、全国展開を目指し、順次本放送エリアを拡大していきました。i-dioは、エフエム東京の登録商標であり、その運営はハードとソフトが分離した形態をとっていました。送信設備などを担当する基幹放送局提供事業者と、番組編成を担当する認定基幹放送事業者がそれぞれ役割を分担。さらに、事業全体を統括する持株会社と、コンテンツを供給するコンテンツプロバイダーも参画していました。

全国放送を目指したVHF-High帯のマルチメディア放送サービスとは異なり、i-dioは日本全国を複数の広域圏に分割し、ハード面を1つの基幹放送局提供事業者、ソフト面を複数の認定基幹放送事業者が分担する体制を採用していました。これにより、地域特性を反映した番組編成が可能となりました。

主な運営企業として、V-Low帯マルチメディア放送事業を統括する株式会社ジャパンマルチメディア放送（旧BIC株式会社）、基幹放送局提供事業者である株式会社VIP、そして複数の認定基幹放送事業者（地域ごとに北海道・東北、関東・甲信越、東海・北陸、関西、中国・四国、九州・沖縄）が挙げられます。コンテンツプロバイダーとしては、TOKYO SMARTCAST株式会社、株式会社アマネク・テレマティクスデザイン、そして一時的に楽天株式会社も参画していました。

有料放送サービスであるNOTTVとは異なり、i-dioは原則として無料放送を提供していました。その運営には、官民ファンドの出資も得ていました。

放送内容と技術

i-dioは、日本のデジタル放送規格であるISDB-TSBを採用し、MPEG-AACによる音声放送を行っていました。また、2018年7月からは、96kHzサンプリングHE-AACフォーマットによるハイレゾ級高音質放送「i-dio HQ」も開始されました。

IPデータキャスト技術を活用することで、音声や映像に加え、電子チラシやクーポン、リアルタイムの自動音声読み上げ、防災情報などを配信することが可能でした。独自の防災情報システム「V-ALERT」も提供され、地方公共団体から地域住民への避難情報配信に活用されていました。

電波が届きにくいエリアへの対策として、IPサイマル放送も実施。インターネット経由で放送を聴取できるよう配慮されていました。スマートフォンやタブレット端末が主な受信端末でしたが、一部チャンネルはパソコンでも聴取可能でした。

チャンネルは、東京マルチメディア放送による全国向けチャンネルと、地域ごとのローカルチャンネルで構成されていました。全国向けチャンネルには、音楽チャンネル「i-dio Selection」、アニメソング専門チャンネル「アニソンHOLIC」、自動車ユーザー向けチャンネル「Voice Road Channel」などが含まれていました。ローカルチャンネルは、関西、九州・沖縄、東海・北陸の各地域で放送され、それぞれの地域のFM局のサイマル放送なども行われていました。その他にも、様々なチャンネルが期間を限って放送されていました。

サービス終了

i-dioは、経営上の問題を抱えており、2019年にはエフエム東京が撤退を発表。損失費の回収が困難であったこと、財務状況の悪化がサービス終了の主な理由でした。2019年8月には第三者委員会による調査報告で、不正な株取引や不正会計が明らかになり、その影響もサービス終了に大きく関わっています。2019年12月25日にサービス終了が正式に発表され、2020年3月31日にサービスは終了しました。

その後、i-dioの事業を推進していた旧経営陣に対する損害賠償請求訴訟や、関係各社の整理が進みました。2023年10月には基幹放送局提供事業者であるVIPが解散し、2024年1月にはジャパンマルチメディア放送が特別清算開始命令を受けています。

i-dioは、多様なコンテンツと技術革新を取り入れながら、時代のニーズに対応しきれず、短期間でサービスを終了せざるを得なかった事例となりました。その経緯は、マルチメディア放送サービスの事業運営における課題を浮き彫りにしたと言えるでしょう。

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