IKA・トリノ

アルゼンチンの国民車、IKAトリノ：AMCとの協業から生まれた伝説

IKAトリノ、後にルノー・トリノとして知られるこの車は、1966年、インドゥストリアス・カイゼル・アルヘンティーナ（IKA）がアメリカン・モーターズ（AMC）との技術提携の下、製造を開始した中型乗用車です。アルゼンチンにおける重要な国産車として、国民に広く愛され、「国民車」と称されるまでになりました。

AMCとの技術提携とアルゼンチン独自のデザイン

トリノのベースは、AMCの1964～65年型ランブラー・アメリカンでしたが、前後ボディパネルはアルゼンチン向けに専用設計されました。さらに、より大型のランブラー・クラシックからの流用を含む独自の改良が加えられました。特に、アルゼンチンの道路事情を考慮し、車体前端を重くした設計や、ホイールベースを延長するなど、現地環境に最適化された点が特徴です。エンジンはAMC製ではなく、カイザー・モーターズ開発のジープ・トーネードエンジンを採用することで、国産部品比率を高めました。

デザイン面では、ピニンファリーナ出身のイタリア人デザイナーが、アメリカ車とは異なるヨーロッパ調のデザインに刷新。トリノの紋章をモチーフにした牡牛のシンボルマークや、洗練された内装により、アルゼンチン国民への訴求を高めました。

多様なモデルバリエーションと高級車としての地位

1966年の発売当初は、3.0Lエンジン搭載の4ドアセダン、ZF製4速MTと3.0Lエンジンを搭載する2ドアクーペ、そしてウェーバー製キャブレターを持つ3.77Lエンジンを搭載する最高級モデル「380W」の3モデルがラインナップされました。3.77Lエンジンは、最高出力215馬力を発揮し、最高速度205km/hを達成しました。

1970年から1976年にかけては「高級車」として販売され、フィデル・カストロ、レオニード・ブレジネフ、ムアンマル・アル＝カッザーフィーといった著名人も所有者として知られています。1977年には最上級モデルとしてトリノ グラン ルーティエが登場、1978年にはルノー・アルゼンチナへの移行に伴い、デザイン変更が行われましたが、主要なボディパネルは継承されました。全盛期には20種類以上のモデルが存在しましたが、生産終了間際には2モデルに絞られました。

レースでの活躍と不朽の人気

トリノは、発売当初から国際的なレースにも積極的に参戦し、1969年のニュルブルクリンク84時間耐久レースで3位入賞を果たすなど、アルゼンチン国内だけでなく、世界的な舞台でもその実力を示しました。現在でも「ツーリズモ・カレテーラ」などのレースカテゴリーで活躍を続けています。

遺産と愛好家コミュニティ

1970年代後半には、ルノーが製造した唯一の非ルノー車、そして同社最後のフロントエンジン/後輪駆動車として、その稀少性を高めました。アルゼンチン国民に愛された国民車としての地位は揺るぎなく、現在でも部品の供給が安定しており、多くの愛好家クラブが活動しています。トリノは、アルゼンチンの自動車史、そして国民の記憶に深く刻まれた一台と言えるでしょう。

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