Il-76 (航空機)

Il-76（イリューシン76）について

Il-76（ロシア語: Ил-76）は、ソビエト連邦のイリューシン設計局によって開発された大型の軍用輸送機です。この機体は冷戦時代の1967年に開発が開始され、ロシア連邦を含む多くの国で現在も運用されています。NATOでは「キャンディッド」というコードネームが与えられています。

概要

Il-76は、6000km以内の距離を40トンの貨物を載せて運ぶ能力を持ち、未整備の滑走路でも使用可能という特性を備えています。また、冬季の厳しい気象条件下でも運用できる性能が求められていました。特に、ロシア連邦軍の空挺部隊による北極圏での集団パラシュート降下では、母機として重要な役割を果たしました。

開発の経緯

イリューシンの基本設計は、アメリカのロッキードC-141 スターリフターに類似しているものの、より大きなサイズと強力なエンジンを特徴としています。初飛行は1971年3月25日に行われ、その後量産が開始され、1974年にはIl-76M型が軍に導入されました。続いて、胴体を延長したIl-76MF型が開発され、1995年には初飛行を迎えましたが、経済的な理由から生産が中断されました。近代化計画として、エンジンの換装や新型機の開発も試みられ、2012年には最新のIl-76MD-90Aが初飛行しました。このモデルは210トンの総重量と53トンの貨物輸送能力を持っています。

構造と設計

機体は高翼構造でT字型尾翼を採用し、主翼は後退角を持ちSTOL（短距離離着陸）性能を重視しています。頑丈な着陸装置が備えられており、前方に4輪、後方に16輪が配置されていることが特徴です。最初のモデルではD-30KPエンジンが4発搭載され、その後PS-90エンジンへの換装が進められたことで、より高い燃費効率が実現されました。機首部にはガラスで覆われた航法士席が設置され、気象レーダーやマッピング用レーダーが搭載されています。

運用と多用途性

Il-76は貨物機としての利用だけでなく、災害派遣や消防活動、さらには空中給油機や早期警戒機としての役割も果たします。2005年にはハリケーン・カトリーナの際にロシアからの最初の救援機として活躍し、また空中消火活動用に改造されたタイプも多くの国で使用されています。新型機のIl-76MD-90Aは特に多様な運用能力を持ち、ロシア空軍やその他の政府機関でも利用が進められています。

製造と生産状況

Il-76はウズベキスタンのタシュケントで近く1000機が生産されましたが、ロシアとウズベキスタンの関係の悪化により、現在はロシアの工場で製造が行われています。新型機の生産計画では、今後15年で最大190機の生産が計画されています。

事故と歴史的な背景

Il-76はその運用歴の中で数多くの事故に見舞われており、特に2003年のイランでの墜落事故は275名が亡くなる大惨事となりました。また、2024年にはウクライナ軍による撃墜事件が報告されています。これらの出来事は、Il-76の運用のリスクと重要性を物語っています。

まとめ

Il-76は、ソビエト連邦の技術力を象徴する大型の軍用輸送機であり、その多用途性と堅牢性によって、現在も多くの国で必要不可欠な存在であり続けています。

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