Il-80 (航空機)

イリューシン80（Il-80）：ロシアの空中指揮機

イリューシン80（Il-80）は、ロシアの空中指揮機であり、イリューシン86旅客機を基に改造されています。この航空機は、地上での指揮が困難な状況、特に核戦争の際にロシア連邦の大統領や軍事指導者が搭乗し、部隊の指揮を行うことを目的としています。艦載する通信機器や空中給油装置、さらには強力な発電機を備えているため、長時間にわたって空中での命令指揮が可能です。

特徴と装備

イリューシン80は、以下のような高度な装備を完備しています。

• - 通信機器：衛星データを含む各種の通信システムが搭載されています。
• - 防御システム：ミサイル防御用の電子戦機器や、赤外線フレアおよびレーダーを妨害するチャフを散布する装置を装備。
• - 電磁シールド：核爆発による電磁パルス（EMP）から防護するための電磁シールドも備わっています。

さらに、前方のコックピットを除くすべての窓は密閉されています。このため、イリューシン80は「終末の日の飛行機」や「空飛ぶクレムリン」として知られています。

仕様と性能

物理的な仕様についても、イリューシン80は強力です。

• - 乗員：5名
• - 全幅：48.1メートル
• - 全長：59.5メートル
• - 全高：15.8メートル
• - 翼面積：320平方メートル
• - 通常離陸重量：208,000キログラム
• - 動力：クズネツォフ NK-86 エンジン×4

性能面でも注目されており、最高速度は970 km/h、巡航速度は850 km/h、そして航続距離は3,600 kmにも及びます。また、実用上昇限度は11,000メートルです。

通信機器の盗難事件

2020年12月7日、イリューシン80の一機が、国営のタガンログ航空科学技術複合体でメンテナンス中に盗難に遭ったことが明らかになりました。39の通信機器と5つの電子ボードが盗まれ、事件は大きな波紋を呼びました。犯人は貨物室のハッチから侵入し、当局は指紋や足跡を収集しました。盗まれた機器は貴金属が使用されているもので、総額は約100万ルーブル（約13,600ドル）に達していました。

事件後、航空機の機能に直接関係ない補助的な機器が行方不明だと報告され、翌年1月には地元のタクシー運転手が窃盗容疑で逮捕されました。

2022年のパレードでの動向

2022年5月9日、モスクワの赤の広場で行われる第77回対独戦勝記念日のパレードにおいて、イリューシン80が飛行する予定として発表され予行演習も実施されました。これにより、核戦力を誇示し西側諸国に警告を送るのではないかとの報道もありました。しかし、当日は「天候不良」を理由に飛行が中止され、イリューシン80の存在は式典において確認されることはありませんでした。

このように、イリューシン80は冷戦時代からの伝統を引き継ぎつつ、現代においても重要な役割を担っています。将来的にはIl-96-400Mを基にした新たな機体も検討されており、ロシアの空中作戦における存在感は続くことでしょう。

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