J-15 (航空機)

J-15（殲-15）

J-15（殲-15、Jiān-15）は、中華人民共和国が自国の航空母艦における運用を目的として、瀋陽飛機工業集団と601研究所が共同で開発した双発艦上戦闘機です。NATOコードネームは「フランカーX2」、中国国内での愛称は「フライングシャーク（飞鲨）」と呼ばれています。本機は、中国人民解放軍海軍の空母建造計画に合わせて開発されました。

開発経緯

開発にあたっては、2001年頃にウクライナから取得した旧ソ連のSu-33艦上戦闘機の試作機（T-10K-3）の情報や技術が参考にされたと考えられています。機体設計は、中国がライセンス生産したSu-27を独自に改良したJ-11B戦闘機を基礎とし、これに国産のアビオニクスや各種兵装を搭載する形で開発が進められました。当初は部分的なステルス性を持つ派生型になるとの情報もありましたが、最終的にはJ-11Bをベースとした発展型として開発されました。

最初の試作機は2009年8月31日に初飛行を実施したと推測されており、その飛行映像や画像は2010年7月に公開されました。これらの画像から、機体設計がSu-33と非常に類似していることが明らかになりました。艦上戦闘機としての要求を満たすため、機体構造の強化など様々な改善が施されました。2010年5月6日には、スキージャンプ式の発艦設備を模した地上施設からの離陸試験が初めて行われました。2012年11月25日には、中国初の航空母艦「遼寧」の飛行甲板への着艦に成功し、本格的な空母運用への一歩を踏み出しました。

エンジンの選定においては、ロシア製AL-31Fターボファンエンジンが初期の試作機や量産型に搭載されましたが、2011年にはWS-10の出力増強型であるWS-10HがJ-15用に選定されたと報じられました。しかし、洋上運用における信頼性の問題からか、国産エンジンWS-10系列の量産機への本格的な搭載確認は2022年11月まで待つこととなりました。

当初は少数生産にとどまるとの見方もありましたが、2020年2月には中国航空工業集団（AVIC）が新たなバッチの生産を再開しました。機体番号は当初3桁でしたが、空母「山東」の就役前後に2桁に変更されています。試作機や派生試作機を除いた量産型は、単座のA型が多数を占めるほか、複座型、カタパルト対応型、電子攻撃型などが生産されていると推測されています。

設計と特徴

J-15は、J-11Bの機体をベースに、Su-33試作機から得られた艦載機としてのノウハウ、特に構造強化やアレスティング・フックなどの設計を取り入れています。このため、外見上および構造的にSu-33と多くの共通点があり、省スペース化のために主翼と水平尾翼を途中で上方に折り畳む機構を備えています。アビオニクスには、J-11Bを基礎とした3軸安定型4重デジタル・フライ・バイ・ワイヤ・システムが搭載されているとされます。Su-33が主に制空戦闘機であったのに対し、J-15は国産のアビオニクスと兵装を装備することで、各種の空対空ミサイル、精密誘導弾、対艦ミサイル、対地ミサイル、対レーダーミサイルなどを搭載可能なマルチロール機としての能力を獲得しています。

特筆すべきは、本機の主任設計者によれば、ランディングギアを含む主要なチタン合金製の耐荷重構造部品の一部に3Dプリント技術が採用されている点です。これにより開発期間の短縮が図られたほか、強度や変形の問題を克服した大型金属部品の3Dプリントによる航空機への適用は、J-15が世界初の事例であるとされています。また、J-11Bと同様に機体構造の多くの部分に複合材料が使用されており、Su-33と比較して空虚重量が軽量化されていると推測されています。

空中給油については、給油ポッドを搭載した機体が別の機体に給油するバディー・システムに対応しており、プローブアンドドローグ方式での空中給油能力を有しています。夜間空中給油訓練の様子も公開されています。

性能評価と課題

J-15の性能については様々な評価があります。チャイナ・サインポストの分析では、F-22を除けば、空気力学的な性能は各国の現用戦闘機と対等か凌駕する可能性が指摘されています。また、アメリカのF/A-18E/Fスーパーホーネットと比較して、出力重量比が10%優れ、翼面荷重が25%低いという主張もあります。主任設計者は、爆弾搭載量、戦闘行動半径、機動性においてF/A-18と同等の可能性があると述べる一方で、電子機器や戦闘システムの更なる改良、国産エンジンの成熟が必要であるとも指摘しています。

中国人民解放軍国防大学の胡思遠氏は、J-15の現状の弱点として、ロシア製AL-31エンジンの出力がF-35のエンジンに劣る点を挙げています。一方、尹卓少将は、空中戦闘能力においてはF/A-18E/Fよりも優れており、アビオニクスの性能は第5世代戦闘機の基準を満たしていると評価する一方で、対地・対艦攻撃能力ではF/A-18E/Fにやや劣るとの見解を示しています。

運用と事故

J-15は中国初の艦載機として高い注目を集めていますが、運用開始当初に陸上基地での墜落事故が2件報告されています。これらの事故では、フライ・バイ・ワイヤ（FBW）システムの誤動作が疑われましたが、空母上での深刻な事故は公表されていません。2016年4月6日の事故では機体は軽微な損傷で修復されましたが、同月27日の事故ではパイロットが死亡し、本機にとって現在のところ唯一の喪失機とされています。その他、バードストライクによる火災発生事例なども報告されています。

派生型

J-15A: 単座の標準量産型。空母「遼寧」および「山東」で運用されていますが、カタパルト式発艦能力を持つ空母「福建」には対応していません。
J-15S: 複座型。開発中止の観測もありましたが量産が報告されました。主に陸上基地での訓練に使用されており、艦上運用はされていません。
J-15T: カタパルト発艦に対応した派生型。試作型でのカタパルト実証試験を経て、J-15Aの改良型として量産型が登場しました。一時はJ-15Bとも呼ばれました。新型のアビオニクス、新型AESAレーダー、IRSTの搭載、ステルスコーティング、翼端ランチャーの変更によるPL-10/PL-15ミサイル対応など、大幅な近代化が図られています。カタパルト式空母だけでなく、スキージャンプ式空母でも運用可能です。
J-15DH: 電子攻撃機型。複座のJ-15Sをベースに、J-16D電子攻撃機の技術を組み込んだとされます。翼端を含む複数のハードポイントに電子戦ポッドを搭載し、敵レーダーなどに対する妨害能力を持ちます。CATOBAR方式の空母「福建」への対応は確認されていません。

主要諸元（推定）

乗員: 1名
全長: 22.28m
全幅: 15.0m（主翼折り畳み時: 7.4m）
全高: 5.92m
翼面積: 67.84㎡
空虚重量: 17,500kg
最大離陸重量: 32,500kg
エンジン: サトゥールン AL-31 / WS-10 ターボファンエンジン × 2基
最大推力: 122.6kN (12,505kgf) × 2
最高速度: マッハ 2.4
航続距離: 3,500km
実用上昇限度: 20,000m
固定武装: GSh-30-1 30mm機関砲 × 1門（装弾数: 150発）
ハードポイント: 12か所
* 搭載可能兵装: 各種空対空ミサイル (PL-8, PL-10, PL-12, PL-15など)、空対艦ミサイル (YJ-8, Kh-31など)、各種爆弾、誘導兵器、電子戦ポッド、給油ポッドなど

J-15は、中国海軍が初めて本格的な艦載固定翼機運用能力を獲得する上で中心的な役割を担っており、今後の中国の空母戦力強化と共に、その能力向上や配備が進められていくと見られています。

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