LHS 3844

太陽系外惑星系 Bastũ̀とKua'kua

地球からおよそ48.5光年離れた、インディアン座の方角に位置する天体に、LHS 3844と呼ばれる赤色矮星があります。見かけの明るさは15.3等と非常に暗く、肉眼で観測することはできません。この星は、ただの遠い天体ではなく、LHS 3844 bという一つの太陽系外惑星を持つことが確認されています。

恒星 Bastũ̀：穏やかな赤色矮星

恒星LHS 3844は、太陽の近傍に存在する赤色矮星の中でも、中間的な温度を持つタイプに分類されます。スペクトル分類ではM4.5からM5型に属し、その表面（光球面）の有効温度はおよそ3,000ケルビンと見積もられています。大きさは太陽と比べてかなり小さく、質量も半径も太陽のおよそ6分の1程度です。長期的な観測から、この星の自転周期はおよそ128日と推定されており、比較的ゆっくりと自転していることがわかっています。

自転速度が遅いことや、スペクトル中に水素の輝線であるHα線が弱いことから、LHS 3844はあまり活動的ではないM型星であると考えられています。大規模な恒星フレアの発生頻度は、TESS衛星による観測データからおよそ11年に一度程度と控えめですが、紫外線で検出されるような小規模なフレアはより高頻度で発生しているとみられており、多い時には1日に最大5回程度起こる可能性も指摘されています。

惑星 Kua'kua：大気のない岩石世界

LHS 3844の周りを公転する惑星LHS 3844 bは、2019年にTESS宇宙望遠鏡の観測によってその存在が明らかになりました。TESSが捉えたのは、惑星が恒星の手前を通過する際に生じる、わずかな明るさの低下（トランジット）でした。この発見を受けて過去の観測データが再調査され、地上からの追観測も行われた結果、LHS 3844 bが実在する惑星であることが確証されました。この惑星は半径が地球のおよそ1.3倍で、母星に非常に近い軌道をわずか11時間程度で一周する、いわゆる「スーパーアース」タイプの地球型惑星です。

LHS 3844 bは、スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた詳細な観測によって、その表面環境について驚くべき事実が判明しました。この惑星は常に同じ面を母星に向けて公転している（潮汐固定されている）と考えられており、恒星に面した昼側の温度は約1,000ケルビンにも達する一方で、反対側の夜側の温度はほぼ絶対零度に近い0ケルビンという、極端な温度差が存在することが分かりました。このような状況証拠や、観測された惑星の明るさの変化パターンから、10気圧を超えるような厚い大気は存在しない可能性が高いとされています。

さらに、恒星LHS 3844から放出される強い恒星風や紫外線放射は、もし希薄な大気が存在したとしても、それを剥ぎ取ってしまうのに十分な力を持つとみられています。恒星からの紫外線照射を検証した研究では、仮に惑星が誕生時に大気を持っていたとしても、わずか数千万年という比較的短い期間で失われてしまうと推定されました。これらのことから、LHS 3844 bの表面はほぼ大気に覆われていない、岩肌がむき出しの状態であると考えることで、観測結果が最もよく説明できます。このような特徴を持つため、LHS 3844 bは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような次世代の観測装置による詳細な研究対象としても注目されています。

国際命名キャンペーン：Bastũ̀とKua'kua

国際天文学連合（IAU）が主導し、2022年に実施された「太陽系外惑星命名キャンペーン（NameExoWorlds 2022）」において、LHS 3844とその惑星LHS 3844 bは命名対象の一つとなりました。このキャンペーンは、国連の「持続可能な発展のための国際基礎科学年（IYBSSD2022）」に協賛して企画されたものです。

2023年6月に発表された最終結果では、恒星LHS 3844がBastũ̀（バスツー）、惑星LHS 3844 bがKua'kua（クアクア）と命名されました。これらの名称は、コスタリカの先住民であるブリブリ族が話すブリブリ語に由来しています。

Bastũ̀は、ブリブリ語で「ハチドリ」を意味します。ブリブリ族の神話において、ハチドリは大地と人間の創造主である創造神Sibö̀（シボー）の使者とされており、重要な存在です。

一方、惑星名Kua'kuaは、「蝶」を意味します。ブリブリ族の伝統文化では、蝶は女性を象徴する言葉として用いられることがあります。また、特定の種類の蝶が現れることは、雨季の到来を示す間接的な兆候ともされています。このように、LHS 3844星系には、遠い宇宙の天体にブリブリ族の文化と自然観に根ざした美しい名前が与えられました。

Bastũ̀とKua'kuaの研究は、大気を持たない岩石系外惑星の形成や進化、そして恒星の活動が惑星環境に与える影響を理解する上で重要な手がかりを与えてくれると期待されています。

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