Least Cost Routing

Least Cost Routing（LCR）の解説：料金最適化システムの進化と衰退

Least Cost Routing（LCR）、またはLeast Cost Switch（LCS）は、発信者の電話番号を基に、最も通話料金の安い通信事業者を自動的に選択するシステムです。類似システムに、特定の通信事業者を自動的に選択するAutomatic Carrier Routing（ACR）があります。LCRは、利用者が各事業者のプレフィックス番号を個別にダイヤルする手間を省くために開発されました。

日本のLCR導入と歴史

日本では、1985年の通信自由化によって日本テレコム（現ソフトバンク）、第二電電（現KDDI）、日本高速通信（現KDDI）といった新電電3社の参入をきっかけにLCRが導入されました。ソフトバンクグループ社長の孫正義氏は、1989年に「回線選択装置管理システム」としてLCRの基本特許を取得しています。 さらに、1984年にはフォーバルと共同で「NCC BOX」というLCR機能を持つ外付けアダプタを開発しており、これはソフトバンクの経営危機を救ったと言われています。フォーバルは中小企業にこのアダプタを無償配布し、新電電からロイヤリティを徴収することで急成長を遂げました。

LCRの提供形態と課題

家庭向けLCRは、電話機への内蔵または外付けアダプタとして提供されてきました。しかし、各通信事業者がシステムを運営しているため、「LCR」と銘打っていても、実際にはNTTか自社かの二者択一しかできない場合もありました。また、一般的に料金比較は通常の料金ベースで行われ、割引サービスは考慮されないため、結果的に高額な事業者を選択してしまうケースも発生していました。このため、より実態を反映した「ACR」へ名称変更する事業者も出てきました。

近年は通話料金の低下、マイラインやIP電話アダプタ内蔵のADSLモデム、ブロードバンドルーターとの競合により、LCRの必要性は減ってきています。携帯電話への通話では事業者識別番号が必要なため、一部ではACR機能を搭載した電話機が販売されていますが、IP電話では機能しません。かつては着メロダウンロードサービスとの連携も試みられましたが、2006年頃にはサービスが終了しています。

代表的なLCRサービス

過去には、ルート88/SuperLCR/SuperACR/SuperACR2（日本テレコム/ソフトバンクテレコム）、コミスタ（NTTコミュニケーションズ）、αmini/αminiII/α-LCR/α-LCR2/α-LCR3/α-ALPHA5/MyLCR/MyACR/001アクセス/77セレクティ（KDDI）、東京電話アダプター（TTNetアダプター。TTNet/フュージョン・コミュニケーションズ）など、多くのLCRサービスが存在しました。

現在のLCR

現在では、マイライン対象通話向けのLCR内蔵電話機は販売されていません。しかし、携帯電話宛通話（マイライン対象外）向けのACR機能を搭載した電話機は、一部販売されています。これは、利用したい通信事業者の識別番号を事前に設定することで、携帯電話への通話時に自動的に識別番号をダイヤルする仕組みです。ただし、IP電話などとの競合は依然として存在します。

企業向けLCR

企業向けでは、構内交換機（PBX）にLCR機能が組み込まれていることが多く、回線選択に必要な料金データベースの設定はPBX納入業者が行います。そのため、企業が特別な割引サービスを利用している場合でも、それを反映した回線選択が可能です。大企業では、専用線を使った内線網とLCRを組み合わせ、外線通話にも内線網を利用する設定を行うケースもありました。

近年はIP電話（特にIPセントレックス）の普及やボリュームディスカウントによるコスト削減により、企業においてもLCRの必要性は薄れてきています。一括契約で通信事業者を選ぶ方が、料金面で有利となるケースが増加しているためです。

まとめ

LCRは通信自由化期に重要な役割を果たしたシステムですが、技術革新と料金体系の変化により、その必要性は減少傾向にあります。今後の通信環境の変化を踏まえ、LCRの後継技術やサービスの動向に注目していく必要があります。

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