M5 (天体)

M5球状星団

へび座に位置する美しい球状星団M5についてご紹介します。正式にはNGC 5904とも呼ばれるこの天体は、夜空で特に印象的な深い宇宙の宝の一つです。

概要

M5はへび座の頭部側にあり、比較的明るいため、条件が整えば肉眼でもその存在を感じ取ることができます。双眼鏡を使えば、容易にその位置を特定し、丸い光の染みとして確認できるでしょう。

この星団は全体として楕円形に見えますが、私たちの銀河系が及ぼす重力の影響を受けて、わずかに歪んだ形をしているとされています。明るさという点では、北天最大の球状星団としてしばしば比較されるM13よりも優れています。 M13が写真撮影で際立った姿を見せるのに対し、M5は肉眼での観測時にM13よりも大きく感じられることがあるという意見もあります。へび座5番星という美しい二重星の、北西におよそ20分角離れた位置にあります。

望遠鏡を使った観測では、口径によってその見え方が劇的に変化します。口径8cm程度の望遠鏡でも、空の状態が良ければ星団の外周部にある個々の星を見分けられることがあります。しかし、中心部は非常に星が密集しており、小さな望遠鏡では個々の星を分離するのは難しいでしょう。かつてウィリアム・ハーシェルも、中心部の分離が困難であると記しています。

口径10cmクラスの望遠鏡で観察したマラスは、M5から伸びる星の列を蜘蛛の足に例え、それが隣のへび座5番星まで届いているように見えたと描写しています。口径20cmにもなると、密集した中心部の星々が少しずつ見え始め、枝分かれした星の並びが渦を巻くように見える様子は、まさに壮観です。さらに口径30cm以上の大型望遠鏡を用いれば、最も密度の高い核の部分でさえも、個々の星に分解して詳細に観測することが可能になります。

M5は地球から約2万4500光年の距離にあり、10万個をはるかに超える星が集まって形成されています。この星団からは100個以上の変光星が発見されており、その多くは周期が約半日であること座RR型変光星に分類されます。M5の最も注目すべき特徴の一つは、その驚異的な年齢です。推定される年齢は約130億年とされており、これは宇宙に存在する既知の球状星団の中でも最も古い部類に入ります。そのため、宇宙の初期の姿や、銀河系が形成された頃の状況を理解する上で、非常に重要な研究対象となっています。

観測の歴史

M5が天体として最初に記録されたのは、1702年5月5日でした。ドイツの天文学者ゴットフリート・キルヒが、妻のマルグレーテと共に彗星を観測していた際に偶然発見し、「星雲のような星」として記録に残しました。

その後、フランスの天文学者シャルル・メシエが1764年に自身の作成する有名な天体カタログにM5として登録しました。その際の記録には「きれいな星雲だが、星は含まれていないと確信する」と記されており、当時の望遠鏡ではまだ個々の星に分離することが難しかったことがうかがえます。

イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルは、1791年に自身の巨大な40フィート反射望遠鏡でM5を詳細に観察し、約200個の星を数えましたが、中心部はあまりにも密集していて星を見分けることはできなかったと報告しています。彼の息子であるジョン・ハーシェルは、M5の見え方を「地面に投げられた、まばらで不規則な雪のつぶてのような」と詩的に表現しました。

他にも多くの観測者がM5の美しさを称賛しています。19世紀の天文学者ウィリアム・スミスは、M5を「エレガントな星塊」と呼び、微光天体の探索で疲れた後にこの星団を見ると心が洗われるようだと述べ、その外周の星が輝いて突出していることや、中心部の集中度がM3よりも高いことを指摘しました。また、ロス卿は観測記録で、星団の直径がおよそ7分角から8分角以上あり、中心部の密集部は直径約1分角、星の等級は12等から15等であること、そして中心から曲線を描いて多くの星の列が派生している様子を詳しく記述しています。

20世紀に入り、当時世界最大級であったヤーキス天文台のクラーク屈折望遠鏡でM5を観測したアメリカの女性天文学者マリー・プロクターは、1924年の著書の中でその感動を綴っています。彼女はM5を「あたかも月に照らされているかのように、やわらかく光る霧のような月明かりを背景に無数の点がきらめいている」と描写し、その光景をじっと見つめる瞬間を「この上なく幸福」であり、「天国をきらりとのぞかせてくれる」かのようだと、心に響く言葉で表現しました。

これらの観測記録から、M5球状星団が時代を超えて多くの人々を魅了してきたことがわかります。その古き歴史と、大小様々な望遠鏡で楽しめる姿は、天体観測の醍醐味の一つと言えるでしょう。

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