MPi-K

MPi-K：東ドイツが生んだカラシニコフ

MPi-K（Maschinenpistole Kalaschnikow）は、東ドイツ（ドイツ民主共和国）でライセンス生産されたAKシリーズのアサルトライフルです。「カラシニコフ型短機関銃」を意味するこの銃は、東ドイツにおける再軍備と、独自の軍事思想を色濃く反映した存在として知られています。

開発と生産の背景

第二次世界大戦後、東ドイツはソ連の支援を受け、兵営人民警察という準軍事組織を設立し再軍備を開始しました。当初は、ソ連から供与されたモシン・ナガン小銃やPPSh-41短機関銃、旧ドイツ軍から接収したKar98k小銃やStG44突撃銃などが使用されていました。

1956年に兵営人民警察は国家人民軍へと改組され、1957年にはソ連製のAK突撃銃を制式小銃として採用。その2年後には、ズール県のエルンスト・テールマン工場を中心にライセンス生産が開始されました。

東ドイツ製AKの特徴

MPi-Kは、ソ連製AKとは異なるいくつかの独自の特徴を持っています。

タンジェントサイト：射程表示はソ連製AKM以降の1,000mではなく、MPi-AK-74が登場するまで一貫して800mまでとなっていました。
ストック：初期はブナ材合板を使用していましたが、強度不足のため1966年からプラスチック製に変更されました。ソ連のAKシリーズに先駆けてプラスチック部品を採用した点は特筆に値します。
クリーニングキット：軍の運用思想の違いから、銃床内部にクリーニングキットを収納するスペースがなく、初期生産型に至ってはクリーニングロッドすら付属していませんでした。クリーニングキットはRG-57クリーニングキットとして別途配備されていました。
スリング：ソ連製よりも細く、取り付け方法も異なっていました。スリングスイベルの形状も異なるため、ソ連製スリングを東ドイツ製AKに取り付けることはできませんでした。MPi-AK-74では、ソ連製と同形状のスリングが採用されています。
銃剣：ソ連製と同じ改良が加えられていますが、グリップと鞘の成形色は黒色です。

多様なバリエーション

MPi-Kは、本家AKと同様に多くの派生型が存在します。

MPi-KMS-72：AKMSに相当するモデルで、折り畳み時にもセレクター操作を邪魔しない独自の側面折り畳み式銃床を採用しています。この銃床は、後にルーマニアやポーランドなどが国産化したカラシニコフ銃にも影響を与えました。東ドイツ製の側面折り畳み式銃床は「イースト・ジャーマン・パターン」と呼ばれることもあります。
MPi-AK-74：ソ連製のAK74に相当するモデルで、口径を5.45mmに小口径化しています。ただし、国境警備隊では5.45mm口径の小銃は採用されませんでした。これは、5.45mm弾の殺傷力が国境警備活動において過剰であり、弾頭が軽量であることから風の影響を受けやすいと判断されたためです。

東西冷戦下の輸出戦略

MPi-Kシリーズは、東ドイツの警察組織や軍事組織が採用したほか、輸出も広く行われました。当時、東側諸国では国産化したカラシニコフ銃の輸出が外貨獲得の重要な手段となっており、特に1970年代までの東ドイツは、全世界に流通するカラシニコフ銃の生産の3分の1近くを担っていました。

しかし、この状況はソ連製カラシニコフ銃の価格低下を招き、1981年から始まったAK74の国産化に関する交渉においては、国産モデルの輸出を禁ずる条項が加えられました。東ドイツ側は、この条項を回避するため、西側諸国での需要も見込んだ5.56x45mm NATO弾仕様のヴィーガー・シリーズを開発しました。

東ドイツ崩壊後のMPi-K

東ドイツ崩壊後、MPi-Kなどの銃器はドイツ連邦軍が接収し、少数が研究や演習に用いられました。しかし、大多数は統一ドイツ政府によってアフリカや中東へ売却され、紛争地域へ流出していきました。

バリエーション一覧

MPi-K：AK。初期型。
MPi-KmS：AKS。空挺部隊などに配備。
MPi-KM：AKMに相当するモデル。プレス加工レシーバーを採用。
MPi-KMS-72：独自の側面折り畳み式銃床を採用。
MPi-AK-74N：AK74に相当するモデル。暗視装置用マウント付き。
MPi-AKS-74N：AKS74に相当するモデル。暗視装置用マウント付き。
MPi-AKS-74NK：カービンモデル。銃身を短縮。
KK-MPi 69：MPi-KMをベースにした訓練用.22口径銃。

運用国

東ドイツ
アフガニスタン
イラク
インド
エジプト
* ベトナム

MPi-Kは、東ドイツの歴史と深く結びついた小銃であり、その独自の特徴とバリエーションは、東西冷戦時代の軍事事情を物語る貴重な資料となっています。

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