NICAM

NICAM（ナイカム）とは

NICAMは「Nearly Instantaneous Compandable Audio Matrix（準瞬時圧伸音声多重）」の略称で、デジタル音声圧縮方式の一つです。主にテレビ放送におけるステレオ音声多重伝送に用いられています。

歴史

NICAMの原型は、1964年に考案されたアナログ信号に対する圧縮伸張技術でした。その後、1972年にBBCの研究により、デジタル領域での圧縮伸張が提唱され、放送への応用が模索されました。

一対一接続

当初、NICAMは放送局間での利用を想定しており、2,048 kbit/sの帯域幅で6チャンネルの高音質音声伝送を目指していました。この規格は、CEPTで標準化されたE1回線に準拠しており、当時計画されていたPDH（Plesiochronous Digital Hierarchy）ネットワークでの利用を視野に入れていました。

1977年から1978年にかけて、BBC研究所は複数の圧縮方式を比較評価しました。その結果、以下の候補の中からNICAM-3方式が選定されました。

RAI方式：A-lawアルゴリズムで14ビットPCMを10ビットに圧縮
フランス放送（TDF）の提案するNICAM方式（14:9圧縮）
NICAM-1（13:10圧縮）
NICAM-2（14:11圧縮）
NICAM-3（14:10圧縮）

NICAM-2は高音質でしたが、ビットレートを犠牲にしてノイズを下げすぎていました。最終的にNICAM-3が採用され、音声信号は32kHzのサンプリング周波数、14ビットのパルス符号変調でエンコードされました。

公衆放送網での使用

1980年代には、BBCが公衆放送網での利用を前提としたNICAM技術を開発しました。この技術は728kbit/sで送信され、NICAM-728として知られています。NICAM-3と同じ音声符号化パラメータを使用します。

BBCは1986年に初のNICAMデジタルステレオ番組を放送しましたが、イギリス国内のほとんどの送信施設が対応するまで、ステレオ放送を公表しませんでした。1991年にBBCは正式にイギリスでのNICAMステレオ放送を開始し、他の放送局もそれに続きました。

NICAM方式採用国・地域

NICAMは、主にPAL方式およびSECAM方式を採用している国々で利用されています。

ヨーロッパ

多くのヨーロッパ諸国で採用されています。

その他の国・地域

イスラエル
香港（主に二カ国語放送で使用）
マカオ
広州
南アフリカ共和国
マレーシア
ニュージーランド

NICAM方式の技術概要

NICAM信号は、モノラル信号との互換性を保つため、音声キャリアの横の搬送波に載せて送信されます。これにより、モノラル受信機でも通常の音声信号を独立して受信できます。

NICAM方式のステレオテレビ信号は、モノラル互換信号や、2～3本の異なる音声信号と同時に送信できます。異なる音声信号を利用することで、多言語放送や国際線の機内エンターテイメントシステムなどに応用されています。受信機側では、音声選択スイッチで聞きたいサウンドトラックを指定できます。

周波数領域

PAL方式では、NICAM音声は音声キャリアの横の5.85MHzで送信されます。SECAM L方式では、NICAM音声はAM音声キャリアの前の5.85MHzで送信され、映像帯域幅は6.5MHzから5.5MHzに縮小されます。

モード

NICAMには、以下のモードがあります。データストリームの3ビット領域によって、自動選択が可能です。

デジタルステレオ音声（1チャンネル）
完全に異なるデジタルモノラル音声（2チャンネル）
デジタルモノラル音声（1チャンネル）と、352kbit/sデータチャンネル（1チャンネル）
704kbit/sデータチャンネル（1チャンネル）

一般的には、前者2つが主に利用されています。今後、さらに4つの選択肢が提案される可能性があります。

NICAMパケット通信

NICAMパケットは、送信前に9ビット疑似ランダムビット生成方式でスクランブル処理されています。このスクランブル処理は、隣接チャンネルへの干渉を低減するために重要です。

疑似ランダム生成は、511ビット反復のビットストリームを生成します。
疑似ランダム生成の多項式は、x^9 + x^4 + 1です。
疑似ランダム生成は、111111111で初期化されます。

NICAMヘッダーはスクランブル処理されず、受信機がNICAMデータストリームにロックし、再同期するために使用されます。

NICAM音声の記録

VHS

NICAM対応のビデオデッキでは、NICAMステレオ音声はVHSのハイファイトラックに記録され、モノラル信号はリニアトラックに記録されます。

DVD

DVD-Video方式とほぼ互換性のある「ビデオモード」での記録の場合、通常はデジタルI、デジタルII、アナログモノラルのうち1チャンネルにしか記録できません。DVD-VR方式では、モノラル信号は消失するものの、ステレオ両チャンネルと二カ国語両方をすべてのデジタルチャンネルに記録できます。

関連項目

音声多重放送
A2[[ステレオ]]
MTS (テレビ方式)
AMステレオ放送

外部リンク

NICAM技術概要（英語）
* BBC技術概要NICAMの項（英語）

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